2020/02/16

ミナス新世代、ダヴィ・フォンセカ(Davi Fonseca)の音楽を聴いてみよう

こんにちは。
今日は、ダヴィ・フォンセカ(Davi Fonseca)の素晴らしい音楽を聴いてみます。

ダヴィ・フォンセカは、ブラジル・ミナスジェライス生まれの音楽家です。
2019年8月に1stアルバム「Piramba」をリリース。
こちらの自己紹介動画によると、2019年11月の時点で27歳だそうです。

変拍子・ポリリズムを多用した複雑なリズムに
ミナス音楽らしい独特で華麗なハーモニー、
異次元に可愛い音作りなど、とてもツボです。ぜひ聞いてみてください。

今回は4曲紹介します。
(解説はあまり自信ないので、話半分でどうぞ)

■1. Davi Fonseca - João no Pati


ピアノとボーカル担当されてる方がダヴィ・フォンセカです。
初めて聞いて、0:53-のピアノ出てきた途端
この方好きっ、と確信めいた気持ちになりました。めちゃキュートです。

この曲は変拍子が複雑で、カウントが大変ですね。
全体の構成はこんな感じでしょうか。
(以下、秒数はMVに合わせています。元音源では-15秒ずれます)

0:15 [Intro] :17/16 拍子
 イントロ。謎楽器は「ビリンバウ」というそうです。
1:13 [Aパート]   :17/16 拍子
 テーマA。ペンタトニックの素朴なメロディ。ハスキーボイスが素敵ですね。
1:51 [Bパート]   :7 / 4  拍子
 テーマB。こちらはベースのペダルポイントが多用され、ゆったりした雰囲気。
2:25 [Aパート]   :17/16 拍子
 今度はフルート+ビブラフォンがメロディを担当します。
3:18 [Bパート]   :7 / 4  拍子
 クラリネット+ボーカルが対旋律を歌い、3:35-から主旋律を歌います。
3:52 [Cパート]   :7 / 8  拍子
 ビリンバウが大活躍。不思議な音ですね。4:23-のコーラスも美しいです。
5:33 [Dパート] :7 / 8  拍子
 ギターソロ。コードワークがミナス感あります。
7:12 [Aパート]   :17/16 拍子
 最後のテーマA。わちゃわちゃして楽しいです。

B,C,Dの7拍子のリズムは比較的取りやすいですが、Aは難しいですね……。
リフの繰り返し周期がわかりやすいので、意外と違和感なく聴けてしまいます。

こういう、変拍子やポリリズムを使った印象的なリフを積み重ねて
作品を前進させていくのが、ダヴィ・フォンセカの魅力だと感じます。

後半に行くにつれて、徐々にリフの響きが崩れていき
3:00-のように大胆な対旋律が入ったり、
7:32-のようにトーンクラスターでぐちゃっとしたりするのも素敵ですね。



冒頭のピアノはAbブルーノートスケールでジャズらしい響き。
1:13- 歌のメロディーはシンプルにAbメジャーペンタトニックスケールが
主体で書かれていますね(ドレミソラ)。
演奏は複雑に、歌メロはシンプルに、という志向を感じます。

和声も綺麗で、
4:23-からの響きが好きです。コーラスの頭にピアノを重ねているんですね。
宗教曲のような雰囲気があります。

5:57-からの和音が格別ステキです。聞き取れる範囲で書いてみると、
5:57-
[key: Db]

|    I△7     IIIm    |   VIsus4/IV      VI/III   |
           (IVリディアンオーグメント)

|   bIIIaug     V/II     |   bIIaug                    |
 (bIIIリディアンオーグメント)    (bIIホールトーン)

|   IIsus4      bIII-5   |   IIsus4          bIII-5    |

|   IIsus4      bIII-5   |   IIsus4          bIIaug |

|   I△7                    |

美しく半音で動くベースラインが構成されているのがわかりますね。見事です。
独特で、ミナスの雰囲気ありますね。

特筆すべきはaugコードを経過的に使って滑らかに接続しているところです。
第二転回形とaugコードを交互に配置して半音下行できるんですね……
目からうろこです。



一曲聴くだけでも才能のきらめきに圧倒されてしまいます。
以下、続きます。

■2. Davi Fonseca - Varal


めちゃ可愛い曲。聴いてると6分半があっという間に過ぎちゃいます。

0:21- ピアノとビブラフォンは同じリズムで動いていますが、
ピアノフレーズの周期が
 [7+5], [7+6], [7+5], [7+7],  [7+6], [7+7] (拍)
と変化する変拍子になっています。めっちゃ変てこです。

0:37-フルートが入って、4:3のポリリズムを作ります。

0:54- [Aパート] リディア旋法の香る歌メロが魅力的です。
1:31- クラリネットのホールトーンスケールのつなぎを経て、
1:32- [Bパート] 半音の動きを多用した不思議なメロディ。

2:05- ここから2周目。イントロのポリリズムが回帰します。
2:26- [Aパート] ここではビブラフォンがメロディを演奏。
 そのままゆるっと3:00のピアノソロに移行。
4:01- [Bパート] 半音メロディを挟んで

4:14- [Cパート] ここハッピーで大好きです。
 最初はフルートとクラリネットのユニゾンで始まります。
4:45- [Cパート] 続いて、フルートとクラリネットがポリフォニックに動き回って
 4拍:3拍のポリリズムをつくっていますね。超可愛い!

5:13- エンディングに向けて緩やかにベースソロが入ります。
5:54- [Bパート] の半音フレーズをベースがお洒落に再現して、
6:07- [Cパート] もう一度ポリフォニー+ポリリズムで弾けて終わります。

長大だけれど可愛い世界。お気に入りです。
僕の好きなカルロス・アギーレの「mariposa leve」にも似ていて綺麗です。

関連記事:■カルロス・アギーレ(Carlos Aguirre) の音楽はジャンルを超えて
https://kaho-ss.blogspot.com/2014/06/carlos-aguirre.html


■3. Davi Fonseca - Saci

めっちゃかっこいい。。しびれます。。
最初から最後までキメキメなサウンドです。
変拍子かつポリリズムなので、カウントするのが難しいです。

雰囲気だけつかむために、冒頭だけリズムを見てみます。
(以下、音ゲーのノーツみたいな感じで、〇はアクセントです)

[Aパート]
■0:23-   9/8拍子 x 2  上で、3拍と2拍のポリリズム
1.|〇--〇--〇--|〇--〇--〇--| (ベース)
1.|〇-〇-〇-〇-〇|-〇-〇-〇-〇-| (ドラム)

2.|〇--〇--〇--|〇--〇--〇--| (ベース)
2.|〇-〇-〇-〇-〇|-〇-〇-〇-〇-| (ドラム)

■0:30-  3-4-2を2回と、3-3-3を2回の繰り返し。
ピアノ・バスクラリネット・コントラバスが重なったベースは大迫力です。
1. |〇--〇---〇-|〇--〇---〇-| (全員)

2. |〇--〇--〇--|〇--〇--〇--| (全員)

3. |〇--〇---〇-|〇--〇---〇-| (全員)

4. |〇--〇--〇--|〇--〇--〇--| (全員)

■0:43- フルートの旋律が入ります。ここから変拍子。
1. |〇--〇---〇-|〇--〇---〇-|〇-| (ベース)
1. |〇-〇-〇-〇-〇|〇-〇-〇-〇-〇|〇-| (メロディ)

2. |〇--〇--〇--〇--|〇-|(ベース・メロディ)
2. |〇⁻〇⁻〇⁻〇⁻〇⁻〇⁻〇⁻〇⁻|〇-|(ドラム)

3. |〇--〇--〇--|〇--〇--〇--|(ベース)
3. |〇-〇-〇-〇-〇|〇-〇-〇-〇-〇|(メロディ)

4. |〇--〇---〇-|〇--〇---〇-| (全員)

■0:56- 2周目。先ほどとほぼ一緒で、
ラストに5拍子のキメが入ります。
1. |〇--〇---〇-|〇--〇---〇-|〇-| (ベース)
1. |〇-〇-〇-〇-〇|〇-〇-〇-〇-〇|〇-| (メロディ)

2. |〇--〇--〇--〇--|〇-|(ベース・メロディ)
2. |〇⁻〇⁻〇⁻〇⁻〇⁻〇⁻〇⁻〇⁻|〇-|(ドラム)

3. |〇--〇--〇--|〇--〇--〇--|(ベース)
3. |〇-〇-〇-〇-〇|〇-〇-〇-〇-〇|(メロディ)

4. |〇--〇--〇--〇--|(ベース)
4. |〇-〇-〇-〇-〇〇--|(メロディ)

5. |〇-〇--|〇-〇--|(全員)5拍子+5拍子

**

とりあえずリズム聴取はここまでです。。(この先もリズム超難しいです)
続きの曲構成も見てみます。

2:08- [Bパート] 歌メロは優しげで、ちょっと安心。
2:38- [Cパート] 嵐の前の静けさのような。
 3:18-あたりから自然にピアノソロにつながります。
3:49- [半音下行4拍のキメ]が入って、
3:51- [Dパート] ここかっこいい……。やばいです。
 全パートがスタッカートでぴょんぴょん跳ねます。
 
4:22- [半音下行4拍のキメ]が入って、
4:24- [Aパート] 再現部。途中で3回崩壊しそうになりつつも
 ぎりぎりでテーマが維持されます。ハラハラする、素晴らしい演出。
5:08- [Bパート] 歌。ほっとします。綺麗。
5:50- アウトロ。凄すぎて涙目になりました。
 弦がびびる音がするので、まさかここだけプリペアドピアノになっている?
 どこか調子はずれで、この世のものとは思えない響きです。
 発想力えぐいです。

Youtubeに、弾き語りバージョンもupされています。
和音やスケールの感じがわかりやすいですね。(とは言えわからないですが……)


■4. Davi Fonseca - Três Barras



最後にこちらの曲を。ダヴィ・フォンセカの歌心が詰まった楽曲です。
先の3曲に比べると、まっすぐな旋律が魅力的です。

0:15- 異郷を思わせるビリンバウのリズムに乗せて、
0:37- [テーマ]初めにアコーディオンがテーマを奏でます。素敵なフレーズですね。
シンプルにメジャースケール(ドレミファソラシド)で書かれています。
ペンタトニックの味わいもありますね。

ピアノ、フルート、クラリネット、コントラバスが加わって、
1:47- [テーマ]テーマが歌われます。ボーカルはMônica Salmaso。
2:09- [テーマ]歌を追いかけて、ピアノが輪唱のように対旋律を奏でます。
2:35- 複雑なリズムとスキャットでつないで、
2:49- 2つめの歌メロ。ちょっと切なげ。3:03からのキメで終わります。

3:14- ゆったりしたテンポになって、ここからアコーディオンソロ。
 懐かしげな音色です。ビリンバウが様々な奏法で寄り添っていますね。
4:09- リズムが復活して盛り上がってきます。
4:39- フルートとクラリネットのアルペジオが左右交互に奏でられます。
 めっちゃ綺麗です。。
 こういうのを巧みに組み込めるセンスに惚れ惚れしてしまいます。
5:01  3つ目の歌メロ。助走のような。5:25-からのユニゾンが楽しいです。

5:38- [テーマフルートがテーマを、ボーカルが輪唱のように対旋律を奏でます。
6:01- [テーマ交代して、ボーカルがテーマを、
 フルート・クラリネット・アコーディオンが対旋律を奏でます。
 細かい変化が美しいですね。
6:32-  先ほどの印象的な左右交互のアルペジオがエンディングを彩ります


上記の青字、赤字のように、様々なアイデアが形を変えて再登場し、
曲を良き方向に導いていきます。
ダヴィ・フォンセカは、シンプルなメロディでも
楽曲のストーリー展開で魅せることができるのですね。

***************

以上、ダヴィ・フォンセカの佳曲を紹介しました。
めちゃ好きです。
ほんとに27歳の方なんでしょうか……凄すぎます。

ダヴィ・フォンセカはミナス出身の方ということで、同郷の新世代の音楽家、
アントニオ・ロウレイロや
アレシャンドリ・アンドレス(今回のMVでもフルート担当されてます)
と並び称されることになるかと思いますが、

僕が聴いた感じだと、
エルメート・パスコアールの後継者みたいで、異次元に可愛い作曲!
という印象を持ちました。ひとつひとつのフレーズが愛らしいです。
複雑さのなかに、エンタメ心がぎゅっと詰まってます。

もっと詳しく聴きたい方は、サブスクにも音源ありますので
ぜひアルバム「Piramba」を聴いてみてください。

また、下記のMúsica Terra様の紹介記事はとてもおすすめです。
(こちらの記事でダヴィ・フォンセカを知りました)

■参考記事:ミナスから再び、とんでもない才能が現れた!ダヴィ・フォンセカ『Piramba』がとにかく凄い (Música Terra)
https://musica-terra.com/2020/02/05/davi-fonseca-piramba/

***

おまけで、当ブログの過去記事を載せておきます。
ブラジルやアルゼンチンの音楽家特集です。

エルメート・パスコアール(Hermeto Pascoal)の楽しい曲想

ノラ・サルモリア(Nora Sarmoria) のときめく曲想

カルロス・アギーレ(Carlos Aguirre) の音楽はジャンルを超えて

ブラジル・ミナス音楽の複雑でキュートな響き

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