良いところがありすぎて、どこを書こうか迷っちゃうアルバムです。
・Vo.齋藤里菜さんがたった半年で上手くなりすぎている
・西浦謙助さんのドラムがバリエーションも熱量も増している
・サポートメンバー(鍵盤:奥野大樹さん、ベース:ミッチーさん)の仕事っぷり
・真部脩一さんが天才発揮
と色々あるのですが
やっぱり齋藤里菜さんのボーカルが良くなっているのが
一番のポイントだと思います。
以前、真部脩一さんが「齋藤里菜は『桜木花道』だ」という期待をされていて
今作聴くとその意味がとてもわかるのですよね。
天性で見初められて、努力と根性で開花していく、その記録のような。
今作は完成度の高さと、大きな可能性が同時に詰まったアルバムだと思います。
冒頭に書くのは変ですが、この素晴らしい2ndアルバム聴いたら
3rdアルバムがさらに期待大になりました。
*
以下、紹介記事というよりも、ここが好きというポイントを書いています。
音源片手に、話半分でお読みいただければと思います。
一気に読むと大変なので、お暇なときにつまみ読みしてみてください。
■1. 会って話そう
齋藤里菜さん真部脩一さんのデュエット曲。おしゃれシティポップ。
このアルバム、2人のユニゾンもハモリもいっぱいあって
それだけでも嬉しくなります。男女ツインボーカル大好きなので。
やっぱり声の相性良くてステキ。
最初はクスッとくる歌詞なんですが、
最後まで聴くと「ああ……」ってなります。
■曲構成
曲構成が凝っているので、丁寧にみてみましょう。
(クリックで拡大されます)
とりあえず全体を眺めてみると、
なんだか変わった順番で組まれているのがわかりますね。
以下続きます
↓
中身をちょっとずつ見てみると、
・多重サビ
冒頭のA→Bのように、
サビの次にもっと強い別のサビを持ってくる手法です。
2度おいしい。
・大サビBの出し方
Bパートの使い方が凝ってます。
1番冒頭で印象付けて、2番で使わず、3番ラストに再現して効果UPする感じです。
2番ではBの代わりに、Aの変形(花いちもんめ)が入れてあります。
完全別物ではなく、Aのアレンジとすることで曲に馴染みやすくなっています。
・2番の構成入れ替え。
間奏CとメロD の順番が入れ替わってます。C→DからD→C。
A'おわりですぐメロに入ることでゆるみを作らない効果や、
サビ直前に間奏のクールダウンを持ってきて、
ラストの盛り上がりを強調したい意図がありそうです。
・3番の落ちサビ
集団行動の曲で落ちサビが導入されるのは初かなと思います。
J-POP頻出の文法が、独特の組み方でうまく消化されていますね。
落ちサビにメロトロンの懐かしくて切なげな音色をもってくるのは感動。
鍵盤・奥野さんのアレンジが華を添えます。
ここの歌い方もとてもいいんですよね。
・ラスト大サビでのリフレイン
前出したキャッチーなフレーズを最後にリフレインさせる手法です。
「電話でもいいからー」が合いの手として出てきます。これ好き。
この曲が1曲めにきて、いきなり最高の曲が出た! と思ったんですが
先聴いていくとさらに凄いのがゴロゴロでてきました。
■2. 充分未来
真部脩一らしさをぎゅっと詰め込んだ歌。
真部サウンドを知り尽くした西浦さんドラムとのコンビネーションが光ります。
ラストサビ3:07-、3:22-のリズムの変化とか。
この曲、集団行動のリズムを考えるうえでとても貴重な題材だと思ったので
この記事の最下部に付録記事を付けました。
お時間ある方はお読み頂ければと思います。
この曲、サビの転調がいいんですよね。
紹介します。
■サビの転調
自然な転調で、一聴すると転調に気づかないかもしれません。
この曲の工夫は、
転調後も、転調前のペンタトニックスケール(ドレミソラ)からはみ出さないように
ソとラだけでサビ冒頭メロディーが組まれているんです。
メロディーを追う限りは、いつものペンタかな?と思うので
転調をカモフラージュすることができます。
また、コード進行をみてみると、
I△7であるはずのコードが、
実は転調先(属調, key-5) のIV△7の機能に知らず知らず置き換わっていた
という構造になっています。
これを、集団行動の曲に現れる独特な転調テクニックとして
とりあえず「I-IV変換」と呼んでおきます。
真部さんの過去作だと「テレ東」「神様の神様」が近いです。
M5の「絶対零度」でも登場しますので、
後ほど見てみましょう。
*
■ギターリフ
充分未来には印象的なギターリフが3回登場するのですが、
転調に合わせて音高が変えてあります。
それぞれ、ガラッと印象が変わりますね。
①0:31- これを基準に
②2:20- key -5 (完全4度下。属調) 中盤でいったん下がってから
③3:38- key +12 (オクターブ上) ラストで一気に1オクターブも上がる。
こういう盛り上がりデザインが好きです。
■3. 春
・J-Popっぽいコードワークにテンションを載せて。
・メロディーはペンタトニックとリズムで集団行動らしく。
という爽やかポップスです。
新機軸。
シンプルなメロディーの中でも、
0:24-みたいに、押韻とメロディーを組み合わせて歌うのは
いいですよね。齋藤里菜さんの歌い方も好き。
全体に、9thの響きが効いたオシャレな曲になっています。
イントロも下記のような感じで、
ベースを動かさないペダルポイントがおしゃれに聴こえます。
Iadd9 IV△9 / I
*
こちらの真部脩一さんのセルフライナーノーツで
「IIm7/V」というコードに言及されていますね。紹介してみます。
例えば、こういうところで使われています。
0:41-
まえがみで うけとめて いよう
IIm7 IIm7 / V I I9
ここ聴くと、なんかフワフワっとする感じがしますよね。
ドミナントのV7の代わりに使うコードです。
3rdがないのでトライトーンが含まれず、爽快な進行感がおしゃれ。
(別の書き方だとV7(9,11) omit3 というコードネームになります)
*
サビ終わり1:23-で間髪を入れず始まるので、「サビ2」みたいに盛り上がります。
・コーラス入って
・ギター入って
・うっすらシンセストリングスが重なる
なぜかこのサウンドに青春を感じるのですよね。
過去の思い出に触れる感じがします。
■4. フロンティア
サビでブラジル感溢れる、めっちゃいい曲。
この曲が一番ツボです。
バンド全員の才能がピッタリハマる一曲です。
初めてサビまで聴いたとき信じられなくてうるうるっときました。
完璧な曲。100回サビ聴いても100回とも感動してしまうやつです。
人の心を揺さぶる強烈な表現とかじゃなくて、
ただただ「イイ感じ」なのですよね。イイ感じの極み。
新しい歌い方、新しい演奏に挑戦した上で
こんなイイ感じのサウンドが作れちゃう集団行動はすごい。
このブログお読みの方は、多分皆さんお好きだと思うので、
試しに視聴してみてください。
各配信サイトで聴けるらしいです。メジャーレーベルは流石です。
*
M1と同じく、2:27-の落ちサビがとても美しいです。
ギター・ドラムのボッサな音色に載せて、繊細で柔らかい歌声が乗って、
急角度からピアノの合いの手が鳴って、ラストサビでベースがドーンと鳴る。
好き。
集団行動は、落ちサビが今後の武器になる気がします。
1stアルバムから続くアイデアとして、
2:00-の1小節にまるまる無音を入れたり、
ブレイクをいっぱい入れたり、「間」を大事にするところが素晴らしい。
演奏しないのが武器、というのはステキ。
■5.絶対零度
新しい集団行動カラーの出た曲。
部分転調を巧みに織り込んだサウンドがかっこいいです。
齋藤里菜さんの低体温で軸のある歌い方がぴったり。
西浦さんのタメのあるスネアも良いし、
サポートメンバーの活躍も目覚ましい一曲です。
この早めのテンポに対して、
ピアノのアルペジオをさらさらっと組み込む発想が高級感あります。
ミッチーさんのベースもここ一番で動いて動いてカッコイイ。
このメンツで集団行動メンバー完成!なら嬉しいです。
*
爽快な進行感が気持ち良いのですが、
真面目に中身を見ると複雑に編まれていて、難しめです。
ここからしばらく、絶対零度のコードワークの話が続きます。
作曲に興味がある方は、話半分で読んでみて下さい。
***********
・イントロ・Aメロ 0:00-爽快な進行感が気持ち良いのですが、
真面目に中身を見ると複雑に編まれていて、難しめです。
ここからしばらく、絶対零度のコードワークの話が続きます。
作曲に興味がある方は、話半分で読んでみて下さい。
***********
| VI | Iadd9 / V | #IVm7b5 | IV△7omit3 III7omit3 |
ベースが下降するパターン。
あえて3度省略(omit3)にして進行感を抑えているように聴こえます。
0:18- 問いかける瞬間「を(9th)ー」が効いてます。
・Bメロ 0:36-
態 度で 語る 小さな 夢 だきしめ
| IV△7 | V9 | IIIm7 | VIm7 |
て 優し く 包む ように
| IIm7 | V9 | I6 | I7 |
メロディーの
包む「よ(6th)」うにー の響きが効いてますね。おしゃれ。
*
曲の後半を見てみます。転調が繰り返されるので、とてもややこしめ。
実音のコードを載せてみます。
[Bメロ]2:17-
| G△7 | A9 | F#m7 | Bm7 |
| Em7 | F#m7 | B7sus4 | B7 |
[サビ前半]2:24-
| E△7 | E△7 | G#m7 | G#m7 |
| E△7 | E△7 | G#m7 | F#7(13) |
[サビ後半]2:36-
| G△7 | F#m7 | Em7 F#m7 | Bm7 |
| G△7 | F#m7 | Em7 F#m7 | Bm7 F#m7 |
[間奏]2:48-
| F△7 | F△7 | G△7 | G△7 |
| F△7 | F△7 | G△7 | G△7 |
[間奏(Aメロ)]3:03-
| Bm | 以下略
まずは、サビ頭の短三度下転調です。
サビ前にB7(VI7)が置いてあります。
これにより、通常はドミナントモーションで飛んだ先のE△7(II△7)を
新たに転調先の主和音(I)にすることが多いのですが、(図の赤字が普通)
実際にはM2.充分未来でも登場した「I-IV変換」の考え方で、
飛んだ先のE△7というメジャーコードを、I△7ではなくIV△7扱いにして
曲が進んでいきます。
簡単に言うと、
転調先を聴き手の想像から属調分(key-5)だけずらすテクニックです。
この転調、聴いた感じふわっとしててカッコいい!ですね。
// 同じメジャーコードとはいえ、こんな置き換えがうまく成立するのか?
// ということに関しては、やはり
// ペンタトニックのメロディーだからこそできる仕掛け、といえます。
// I△7とIV△7だと、使うスケールに違いがあるため
// I△7(アイオニアンスケール) ←♮4thを含む IV△7(リディアンスケール) ←#4thを含む
// という感じで、通常は違いに気づいてしまいます。
// そこで、ペンタトニックスケールを持ってきて共通化してしまえば、
// ほとんど区別ができなくなるのですよね。
サビ頭の転調が凝ってて面白い、というのがわかりました。
後半も見てみます。
2:30- サビ前半
| E△7 | E△7 | G#m7 | F#7(13) |
[Bmaj] IV△7 IV△7 VIm7 V7(13)
2:36- サビ後半
key +3(短三度上転調 …こちらは自然な使い方です)
| G△7 | F#m7 | Em7 F#m7 | Bm7 |
[Dmaj] IV△7 IIIm7 IIm7 IIIm7 VIm7
| G△7 | F#m7 | Em7 F#m7 | Bm7 F#m7 |
IV△7 IIIm7 IIm7 IIIm7 VIm7 IIIm7
2:47- 間奏
key +5(下属調転調) IV→Iの変換
| F△7 | F△7 | G△7 | G△7 |
[Gmaj] bVII△7 bVII△7 I△7 I△7
( [Dmaj] bIII△7 bIII△7 IV△7 IV△7 )
| F△7 | F△7 | G△7 | G△7 |
[Gmaj] bVII△7 bVII△7 I△7 I△7
( [Dmaj] bIII△7 bIII△7 IV△7 IV△7 )
3:00- 間奏(Aメロ)
key -5 (属調転調) IV→Iの変換
| Bm |
[Dmaj] VIm
間奏のF△7 G△7というメジャー7thの繰り返しが良く効いてますね。
特にG△7は、先ほど同様、IとIVの機能が曖昧化されています。
IVとみなして冒頭の調へ戻っていくのですね。
***********
コードが難しいから凄い、ということは決してなく
「なめらかに、疾走する感じに曲が進んでゆく」という目的のために、
適切なコード・転調選びができているところが流石です。
■6.鳴り止まない
たのしい曲! 聴いててニヤニヤします。
曲長2分51秒という究極のシンプルさで、最高のパフォーマンス。
ライブ行ってる感じで、幸せな気分になります。
歌詞カードだと、サビは
「そして100年たっても 鳴り止まない」
とスタイリッシュに一行だけ書かれているのですが、
実際に聴いてみたら
鳴り止まなーい・ななーい・ななななーい・
ななーい・ななななーい・ななーい・ななななーーい
鳴り止まなーい・ななーい・ななななーい・
ななーい・ななななーい・ななーーい
ですよね。
こうやって字におこすと奇をてらっているようにみえますが、
聴いてみると、ビックリするくらい自然です。
「鳴りやまなーい」ときたら「ななーいななななーい」って当然歌うよね!と
錯覚しちゃうくらいの説得力があります。
サビのメロディーは決して単純なわけではないんですが
冗談抜きで一回聴いたら口ずさめます。耳に残る残る。
「鳴り止まない」のタイトルは伊達じゃないです。
バンドマジックが詰まった曲。
これから人気出て、
でっかい舞台でこの曲熱唱してほしいです。
逆にライブハウスで歌っても、
そこをどでかいステージに見せてしまうくらいのパワーがあるかもしれません。
*
西浦さんの爆演が最高です。
最後のフェードアウト中に聴こえるメタルなドラムとか、
遊び満載で超かっこいいです。
あと5分くらい聴きたいーと名残惜しく思いつつ終わります。
■7. モンド
ここのM6. 鳴り止まない → M7. モンドのギャップはすごい。
サポートの奥野さんの鍵盤アレンジが素晴らしい静謐な曲。
最初の1分間は、ピアノとクラリネットとファゴットの3重奏。
クラシカルで綺麗。
このイントロ聴きとりは僕だと正直無理なのですが
途中までとるとこんな雰囲気かなと思います。
B△m7(11)/ D B△m7(9)/ D
B△m7(11)/ D B△m7(9)/ D
Em9 Dm9
E7(b5)omit3 Eb7(b5)omit3 D7(b5)omit3 …
冒頭の和音は、コードネームにすると超複雑ですが
「Bメロディックマイナースケール」上に構成される和音になっています。
メジャーとマイナーの隙間にある繊細な響きですね。
m9コードの平行移動も併せて、ラヴェル感あります。
*
よくよく考えると、
齋藤里菜さん、ピアノ伴奏だけでこんな風に歌えているのですよね。
1stアルバムからの進化がすごい。
ラストに出てくるこの和音とメロディー、とても切なげで美しいです。
2:31-
また こんど ね
IIm7 V7(b9,13) I
このb9thの響きのなか、「またこんどね」と言われると、
もう会えない感がにじみ出ます。
・2:25-で奏でられるクラリネットの対旋律なんですが、
よく聴いてみると、
続く最終曲「オシャカ」の冒頭のメロディーの予告になっています。
■8. オシャカ
前作の「バックシート・フェアウェル」にならぶカーテンコール曲。
先ほど予告されたこのAメロのメロディー、いいですよね。
ド ↗ ミ ↘ レ ↗ ラ ↘ ソ のようにジグザグで上がる音型です。
過去、相対性理論「チャイナ・アドバイス」サビとか、
ハナエさんの「Rainbow Love」サビ、「かのような」サビに
同じ音型がでてきます。真部脩一さんらしいフレーズ。
*
0:25- 同音の連続で出来た独特で硬質なBメロ。
ここから少しずつ動きが生まれて、
1:03- サビのコードは、
J-POPの必殺技ともいえるカノンコードが使われています。
特にベースが順次下降する形式が用いられていて、王道感あふれますね。
特殊なのは、サビのハモリを5度下ハモリにしているところ。
通常の3度音程のハモリに比べて空虚で力強い響きです。
パワーコードの音程です。
*
3:14-変則的に3拍子になります。Vampilliaの世界観も継承しつつ。
ここのあたりからアウトロまで、西浦さんの快演が曲を推し進めます。
本アルバムのこだわりポイントを総ざらいするように、
3:52-の美しい「落ちサビ」を経て
4:10 で1小節近い「ブレイク」を経て
アウトロへと進んでいきます。
4:18 から32分音符のすっごいドラムフィルインがあります。カッコイイ!
満を持して登場するアウトロ4:22-では
サビと同じカノンコードが用いられているのですが
サビでは1和音4拍だったのが、
アウトロでは1和音2拍に圧縮されて演奏されます。
これにより、アルバムの終わりに向けた強い進行感が生まれる仕組みです。
同時に、ブラスセクションが加わって大団円に。
諦念の溢れる歌詞に、こうやって高らかに終わりを告げるサウンドを
ぶつけるギャップがたまらないです。盛り上げ曲線のデザインが抜群にうまい。
*****
*****
集団行動の2ndアルバム『充分未来』は、アイデアがギュッと詰まった名盤です。
驚くことに、アルバム最後まで聴いてもたった30分なんですよね。
端的で密度の詰まった音楽は、何度もリピートしたくなります。
たっぷり褒めたので満足しました。
関連記事:
■集団行動の1stアルバム『集団行動』を聴こう
1stアルバムの紹介記事です。
■集団行動2018年バンドサポーター大募集!あなたも集団行動に参加しませんか?
貴重。
**********************
ここから付録です。お暇なときに、話半分で読んでみてください。
よっぽどの方にお勧めです。
付録1 「コードワークに関して」
付録2 「リズムに関して」
■付録1「コードワークに関して」
真部脩一さんの作曲の基礎となるコードワークを見てみます。
「真部循環」と呼んでみます。緩くまとめるとこういう感じです。
(1) (2) (3) (4)
SD D T -
または
(1) (2) (3) (4)
SD - D T
コードを(1)~(4)の4個セットで配置します。
ここに、下記のコードのどれかを当てはめます。
トニック(T) :I 、 VIm、 IIIm
サブドミナント(SD) :IV、 IIm
ドミナント(D): :V、 IIIm ※IIIm(D)はVIにのみ進行可能
「-」のところは任意です。
集団行動だとDが省略されることが多いですね。より端的でシャープな進行です。
実際にSD, D, Tを選んでみると、こんな感じです。
SD D T
IV V VIm : 456 [F G Am]
IV IIIm VIm : 436 [F Em Am]
IIm IIIm VIm : 236 [Dm Em Am]
IV V I : 451 [F G C]
IIm V I : 251 [Dm G C]
IV - VIm : 4-6 [F Am ] D省略。頻出。
また、特別な例として、
①②を同時に満たすものが作れます。
(1) (2) (3) (4)
SD D T/D T
IV V IIIm7 VIm 4536
いわゆる、ポップスの文法で「王道進行」と呼ばれるものです。
真部脩一さんのメインエンジンのひとつ。
そして、ここが大事なポイントなのですが、
以上の全てのコードは真部さんの作曲だと
互いに入れ替えて使うことができます。
4536を236に置き換えたり、451に置き換えたりできます。
**
例を見てみましょう。
M1 会って話そう
会って話そう 電話で 今すぐ会ってから
IV V IIIm VIm 4536 (王道進行)
SD D T/D T
話そう いや電話で 声じゃ伝わらない
IIm IIIm VIm I 2361
SD D T T
4536だけで組んでもいいのですが、「真部循環」のルールを使って、
「4536」と「2361」という同機能のコードワークが交互に配置されています。
こんな感じに、王道進行を他のコードで代用しながら組むのが
真部さんっぽい手法です。
今作アルバムで見てみると、
赤字分が大体同じ機能といえます。
・会って話そう
A(サビ) 4536・2361
B(大サビ) 4536
C(間奏) 6-4-
D(メロ) 236-
E(間奏) 2345
・充分未来
A(前奏) 4-6-
B(メロ) 4-6-
C(サビ) 4561 ※IV V VIm I/V
・春
A(前奏) 1-4-
B(メロ1) 1-6-245-
C(メロ2) 4-1-
D(サビ3) 4536・4516
・フロンティア
A(前奏) 4-36
B(メロ1) 4-6-
C(メロ2) 236-
D(サビ) 4536
・絶対零度
A(メロ) 6-5-#4-43
B(メロ) 4536・251-、4536・236-
C(サビ) 4-6-
D(サビ後半) 4-3-・236-
・鳴り止まない
A(メロ) 4-1-
B(メロ後半) 6543251-
C(サビ) 4536・451-
・モンド
A(メロ) 4365・4325
B(サビ) 4536・451-
・オシャカ
A(メロ1) 4536・451 b7
C(メロ2) 6
B(メロ2後半) 4536・451 b7
D(サビ) 15654325
E(間奏前半) 6543
F(間奏後半) 4-3-
G(大サビ) 15654325 432645
並べてみると、なんとなく基本的なスタイルは分かるかなと思います。
サブドミナント(IV) の進行が武器なのですね。
こんな風に同じ雰囲気を醸し出しつつ、いろいろなバリエーションを織り交ぜて
飽きの来ないサウンドを作るのが独特な手法です。
*
■付録2「リズムに関して」
ペンタトニックスケールを使った魅力的なメロディーラインが有名ですが、
今回は、メロディーのリズムに関して考えてみます。
参考図書は下記です。おススメ。
「日本人のためのリズム感トレーニング理論」 友寄隆哉 著
4-6 日本語が持つリズムの特徴
4-7 日本語のアクセントとリズム感
*
真部さんの歌メロは、表拍を重視する傾向がある、
と仮説を立てました。
日本語のもともとのリズムは、表拍主体なのですよね。
例えば俳句のリズム
たか たか た
たか たか たか た
たか たか た
だったり、三三七拍子だったり。
僕は真部脩一さんのメロディーにも同じ印象を持っています。
親しみある感じ。
充分未来のAメロを見てみると
それ
で ユー トピ アも やみ のな か (表拍)
たん たん たぬ きは あな のな か (表拍)
はち きれ そに ハ ート は やま ない(一部裏拍)
う ちゅうじだ いの まく のな か (表拍)
2文字ずつ分けると、1文字め(表拍)の方にアクセント付けて歌ってますね。
「たんたんたぬきは あなのなか」が特にわかりやすいです。
「ハートは」のところだけ裏拍が入れてあります。
こんな風に、裏拍で歌う部分も多いのですが、
表拍で組まれた部分には、より「真部み」を強く感じます。(私感です)
表拍にアクセントがくるこのようなリズムは、
日本語の自然な響きにより近いといえます。
真部脩一さんがこういう特徴的な歌メロを書かれるのは、
日本語の歌詞や日本語の押韻を重視した結果ではないか、と思われます。
*
一方で、音楽の世界だと表拍リズムは少しやぼったい感じになりますね。
童謡とか唱歌とかの感じになるので、避けられる傾向にあります。
この問題をどのように回避しているかを考えてみると……
集団行動の演奏面、特に西浦さんのドラムパターンでは、
裏拍のグルーヴが主体に書かれていることが多いです。
充分未来の0:31- とか、裏拍にシンバルが入るパターンが得意技ですよね。
シンコペーション、アウフタクトもたっぷりあります。
真部脩一さんと西浦謙助さんの組み合わせが最強!と感じられるのは、
この表拍と裏拍とが補間しあう関係だからかもしれません。
表拍の歌メロだけだと不足するノリ感を、裏拍の演奏で補完する関係。
これとは逆に、真部さんの表拍に合わせて、
西浦さんも表拍・頭ノリの演奏を繰り出す、というケースもありそうです。
「東京ミシュラン24時」とか、過去作だとハナエさんの「変幻ジーザス」とか。
こういう頭ノリパターンもカッコよく(かわいく)叩ける西浦さんは、
真部さんとのコンビネーション抜群ですよね。
*
この表拍の歌メロについてもう少し考えてみると、
表拍って、実は音楽経験があると歌いにくいのではないか?と思い至りました。
楽器演奏するかたは、良いグルーヴを生み出すため
ふつうは自然と裏拍で(またはさらに細かい音符で)リズムをとっていますよね。
いち「とー」にー「とー」さん「とー」しー「とー」
といったように。
そういえば、真部さん本人が「会って話そう」を歌おうとしたとき
ゴーストノートを入れないと上手く歌えなかった!
という話がインタビューにありました。
表拍は、演奏者にとって簡単そうに見えて難しいのだと思います。
音楽経験や先入観のない齋藤里菜さんは
もしかしたら表拍のメロディーを純粋に歌うことができる
特別な存在なのかもしれません。
*
こういうことを考えると
集団行動は本当に相性が良いメンバーが揃っている気がしますよね。
ツボです。
最後まで読んでくださった奇特な方、ありがとうございます。
この記事、一万字くらいあります。
とても面白いかつ勉強になる記事ありがとうございます。
返信削除3rdの感想も楽しみにしております。
この記事を書くのに、すごい時間を要したのではないでしょくか?
私も真部さん作曲西浦さんドラムのコンビがずっと大好きです。
こんにちは。お読みいただきありがとうございます。
返信削除集団行動の3rdアルバムは、前代未聞で素晴らしいアルバムだったので、記事もそのうち書ければと思います。
この記事も、たっぷり時間かけて書いたような覚えがあります。
真部さん西浦さん、根っこのセンスは変わらず、めきめきクオリティアップしていますね。一層好きになりました。