田中秀和さんの「PUNCH☆MIND☆HAPPINESS」のスケールを見てみます。
・関連記事:田中秀和さんのスケールを聴いてみよう
■PUNCH☆MIND☆HAPPINESS
めちゃ変てこで面白いメロディーです。どんな仕組みなんでしょうか。
勉強不足のためほとんど間違ってると思いますが、
雰囲気だけ伝わればいいかなと思います。
詳しい方おられたらぜひ教えてください。話半分でどうぞ。
↓
■わけかた
今回は、メロディーを下記のように分類します。
区別するために、適当に番号を振ってみました。
・メジャースケール(ナチュラルマイナー) … いつもの
・ハーモニックマイナースケール (①) … 不幸。切なげ。
・メロディックマイナースケール (②) … 泣き笑い。
・ホールトーンスケール・全音音階(③) … 多幸感。アホ。
・クロマティックスケール・半音音階(④) … 半音音階。飾り付け。
曲中でスケールが変わるたびに、
感情がプラスにマイナスに行ったり来たりする感じです。
下記のようなイメージかなと思います。
マイナス プラス
①不幸 ⇔ ②泣き笑い ⇔ ③多幸
以下、曲を見ていきますが、
それぞれの気分の違いを、なんとなくでも感じ取れればと思います。
※実際には、一瞬でコードが移り変わるのでスケールが決まりませんが、
僕の好みでなんとなくつけてみました。
ところどころ、歌メロ・対旋律・ベースラインで違うスケールが
使われているところもあり、本当はもっとややこしそうです……。
***
キー: F major
■前奏
0:00-
PAN-PAN PUNCH☆MIND PAN-PAN-PAN-PAN PUNCH☆MIND
Iaug bVIIaug Iaug bVIIaug
(Iホールトーン③) (Iホールトーン③) (Iホールトーン③) (Iホールトーン③)
PAN-PAN PUNCH☆MIND UNHAPPYよバイバーイ
Iaug bVIIaug Iaug
(Iホールトーン③) (Iホールトーン③) (Iホールトーン③)
ホールトーンスケール③は、単に幸せというよりも、
「頭ハッピー」といった感じですね。わらっちゃう。
**
0:07-
PAN-PAN PUNCH☆MIND PAN-PAN-PAN-PAN PUNCH☆MIND
IIm7 IIm△7 V V(b13) (≒Vaug)
(クロマティック④) (クロマティック④) (Vミクソリディアン) (Vミクソリディアンb6②)
PAN-PAN PUNCH☆MIND UNHAPPYよ バイバーイ
I△7 I7 VI7(b9) VI7(b13)
(クロマティック④) (クロマティック④) (VI HMP5B①) (VI HMP5B①)
PAN-PAN PUNCH☆MIND PAN-PAN-PAN-PAN PUNCH☆MIND
IIm7 IIm△7 V V(b13) (≒Vaug)
(クロマティック④) (クロマティック④) (Vミクソリディアン) (Vミクソリディアンb6②)
ぜんたい とまるな ギリギリがんばれHAPPINESS
Iaug
(Iブルーノートスケール)
・緑色のメロディックマイナー②は、「泣き笑い」とか「シリアスな笑い」
といった感じの、多幸・不幸が入り混じる響きになっています。
この曲は、メロディックマイナーの微妙さがピッタリはまるイイ例です。・青色のハーモニックマイナー①は、切なくて不幸な表情です。
Bメロで大活躍します。
・橙色のクロマティック④は、感情表現というよりも、
メロディーを飾り付けるワンポイントお洒落で用いられています。
(追記:コメントでご指摘いただいたので、クロマティック分を増やしました)
**
■Aメロ
0:18-
ななつ ころんで はちかい めのジャン
IIm7 IIm△7 V V(b13) (≒Vaug)
(IIドリアン) (IIメロディックマイナー②) (Vミクソリディアンb6②) (Vミクソリディアンb6②)
プ ジャンプして ニッコリ つまり
I△7 I7 VI7(b9) VIaug
(Iアイオニアン) (Iミクソリディアン) (VI HMP5B+#9①) (VI ホールトーン③)
コロコロ コロコロ ころがり ながらで
IIm7 IIm△7 V V(b13) (≒Vaug)
(IIドリアン) (IIメロディックマイナー②) (Vミクソリディアンb6②) (Vミクソリディアンb6②)
も すぐ たちあが る はじめ
I I7 VI7 VIaug
(Iアイオニアン) (Iミクソリディアン) (VI HMP5B①) (VI ホールトーン③)
・メロディックマイナー(②) の響きがたっぷり入ったAメロです。
幸せになり切れない感じ。不幸だけど明るい、といった相反するイメージです。
・ホールトーン(③) は、木琴のかわいい合いの手で使われています。
このようにワンポイントで使うと、無邪気で可愛い響きになりますね。
テンポが早めなのも相まって目が回りそうです!
***
Aメロ後半
0:30-
たがりな ら なんと でもなるさ みちは
IIm7 IVaug V
(IIドリアン) (IVホールトーン③) (Vミクソリディアンb6② とか Vミクソリディアン)
しらずと も なんと でもなる さ だから
I△7 I7 VI7 VIaug
(Iアイオニアン) (Iミクソリディアン) (VI HMP5B+#9①) (VI ホールトーン③)
コロコロ コロコロ こころの むくまま
IIm7 IIm△7 V V(b13) (≒Vaug)
(IIドリアン) (IIメロディックマイナー②) (Vミクソリディアンb6②) (Vミクソリディアンb6②)
に
I
(I アイオニアン)
・ここが一番ややこしいです。
メロディーに対し、合いの手が(ベースも)違うスケールで突っ込んでくるので、
目まぐるしく色味が変わります。感情がコロコロ転がされる感じです。
・先ほどの①~③がまんべんなく散りばめられていて、
感情の起伏に富んだ魅力的なメロディーになっています。
(聴く分にはいいですが、正しく歌うのはめちゃ難しそうです)
***
■Bメロ
0:43-
しあわせはどこに あるのだろう あおいとりは うちにいるって
VI7 IIm7 V7(b9) I△7(9)
(VI HMP5B①) (IIドリアン) (V HMP5B①) (I アイオニアン)
かごがあいたら にげちゃったよ やあやあだれか つかまえてはやく
VI7 IIm7 V7 V7
(VI HMP5B①) (IIドリアン) (Vミクソリディアン) (Vミクソリディアン)
はんぶんこしようよね こーっち いっしょに
V7 VI VI7(b9) (≒bVIIdim7)
(Vミクソリディアン) (VIミクソリディアン) (VI HMP5B①)
・Bメロは青色のハーモニックマイナー(①)がいっぱい登場します。
めちゃダウナーで切なげ。雰囲気の変化がわかりやすいですね。
・Bメロで我慢した分、サビを盛り上げることができるので
ここでうまく曲全体のバランス取りをしているんですね。
***
■Cメロ (サビ)
0:58-
がんばっちゃおう がんばっちゃおう
IIm7(9,11) V
(IIドリアン) (Vミクソリディアン)
げんきに なあれって さけん だ ら
IIIm7 bVIdim7 VIm7 VI7/V IVaug /bIII
(IIIフリジアン) (III HMP5B①) (VIエオリアン) (VIミクソリディアン) (bIIIリディアンb7②)
せいめいりょくアップだ せいしんりょくアップだ
IIm7 IIm△7 IIIm7 IIIm△7
(IIドリアン) (IIメロディックマイナー②) (IIIドリアン) (IIIメロディックマイナー②)
つよい じぶんに なれそ う だいっ
IIm7 IIm△7 IIIm7 IIIm△7
(IIドリアン) (IIメロディックマイナー②) (IIIドリアン) (IIIメロディックマイナー②)
つよい じぶんに なれそ う だいっ
IV△7 #IVm7b5 Vm7 I9 VIaug7
(IVリディアン) (#IVロクリアン) (Vドリアン) (Iミクソリディアン) (VIホールトーン③)
***
・前奏、A、Bに比べると、普通の(黒字の)スケールが多めです。
サビらしく、ポップで歌いやすいバランスになっていて、
どちらかというと明るく響く印象です。
・「生命力アップだ~」のところのメロディックマイナー(②)、
揺れ動いて盛り上がる感じがたまらないです。
・サビ折り返しのところは、
左chでホールトーン(③)のグリッサンド(駆け上がり)が鳴ってるかなと思います。
魔法の効果音みたいな。
■サビ後半
1:10-
がんばりましょ がんばりましょ
IIm7(9,11) bVII7(9,#11,13)
(IIドリアン) (bVIIリディアンb7②)
みらいが キレイに はれる ように
IIIm7 bVIdim7 VIm7 VIm7/V
・最後の「つかみとるんだよ」は、
ハーモニックマイナー(①)であえて切なげに着地しています。
単純に明るく終わらないところがこの曲のカッコよさかもしれません。
(20/1/25追記)
・2番へのつなぎは、五度圏を左回りで一周する音階が使われています。
F → Bb → Eb → Ab → Db → Gb → B → E → A → D → G → C → F
F → Bb → Eb → Ab → Db → Gb → B → E → A → D → F# → A#
完全4度上行をくりかえして、
1:22-1:24の2秒間で、1オクターブの12音全部を駆け上がってます。
コメントでご指摘いただけたので訂正しました。
最後の D→F#→A# だけ、長三度音程の上行になっています。
聴感でDaugを感じさせる仕組みになっていたんですね。
***
今回は、田中さんの曲のなかで、
特にスケールの工夫が楽しい「PUNCH☆MIND☆HAPPINESS」を
取り上げてみました。
この曲は、完璧に歌うのが難しそうなんですが、
花守ゆみりさんみたいに緩いピッチで歌うのもめちゃ合ってる気がします。
きちんと設計されたメロディーの揺れに、偶然の歌の揺れが重なって、
作曲者の意図をこえる面白さが出ている気がしますね。
スケールを駆使しつつも
スケールから一歩飛び出た魅力があると思います。
名曲です。
***
補足:
・一般的に、ポップスは普通のスケール(本記事 黒字)だけで作ることができます。
①-④は曲中で1個も使われないこともしばしばです。
田中秀和さんの場合は、曲のここぞというところで
局所的にスケールを変化させることが多いかなと思います。
(「PUNCH☆MIND☆HAPPINESS」は、全編にわたるレアケースです)
・本記事のように、複雑なスケールで面白いメロディーをつくる方法もあれば、
普通のスケール(7音)よりもさらに音数を減らした
ペンタトニックスケール(5音)で綺麗に作曲する方法もあります。
参考:真部脩一(ex. 相対性理論) のペンタトニックスケールを解析してみよう
どちらのアプローチでも、曲のテーマに合ったスケールを適切に扱えば
いい曲をつくることができるんですね。
***
参考文献
・ 作曲基礎理論~専門学校のカリキュラムに基づいて
スケールの勉強に。
過去記事
◆田中秀和さんのスケールを聴いてみよう
http://kaho-ss.blogspot.jp/2017/01/blog-post_9.html
田中さんの単発的な使用例です。
◆上田麗奈「ワタシ*ドリ」(作曲:田中秀和) を聴いてみよう ※8bitカバー音源つき
http://kaho-ss.blogspot.com/2019/01/8bit.html
スケールのアイデアが詰まった田中さんの名曲です。
◆聴いて覚える田中秀和さんのコードワーク
http://kaho-ss.blogspot.jp/2014/10/blog-post.html
ハーフディミニッシュ・ディミニッシュコードの紹介。
オーグメント(オーギュメント)コードの紹介。
◆神前暁さんがつくる魅惑の「短3度転調」
http://kaho-ss.blogspot.jp/2014/09/3.html
キー±3 の転調。
◆神前暁「chocolate insomnia」でコードの転回形を覚えよう
http://kaho-ss.blogspot.jp/2016/04/chocolate-insomnia.html
転回形の使い方。
◆Lamp「雨降る夜の向こう」「八月の詩情」のコードを聴こう
http://kaho-ss.blogspot.jp/2015/02/lamp1.html
凝ったコードでキュートなポップス。
(IVリディアン) (#IVロクリアン) (Vドリアン) (Iミクソリディアン) (VIホールトーン③)
***
・前奏、A、Bに比べると、普通の(黒字の)スケールが多めです。
サビらしく、ポップで歌いやすいバランスになっていて、
どちらかというと明るく響く印象です。
・「生命力アップだ~」のところのメロディックマイナー(②)、
揺れ動いて盛り上がる感じがたまらないです。
・サビ折り返しのところは、
左chでホールトーン(③)のグリッサンド(駆け上がり)が鳴ってるかなと思います。
魔法の効果音みたいな。
■サビ後半
1:10-
がんばりましょ がんばりましょ
IIm7(9,11) bVII7(9,#11,13)
(IIドリアン) (bVIIリディアンb7②)
みらいが キレイに はれる ように
IIIm7 bVIdim7 VIm7 VIm7/V
(IIIフリジアン) (III HMP5B①) (VIエオリアン) (VIエオリアン)
ね わたしたち これから きっとね
II/#IV IV I/III bIIIdim7
(IIミクソリディアン) (IVリディアン) (クロマティック④) (II HMP5B①)
きっとね ハッピーを つかみとるんだ よ
IIm7 #IVdim V7 I
(IIドリアン) (IIミクソリディアン) (V HMP5B+#9①) (5度圏1周)
ね わたしたち これから きっとね
II/#IV IV I/III bIIIdim7
(IIミクソリディアン) (IVリディアン) (クロマティック④) (II HMP5B①)
きっとね ハッピーを つかみとるんだ よ
IIm7 #IVdim V7 I
(IIドリアン) (IIミクソリディアン) (V HMP5B+#9①) (5度圏1周)
・最後の「つかみとるんだよ」は、
ハーモニックマイナー(①)であえて切なげに着地しています。
単純に明るく終わらないところがこの曲のカッコよさかもしれません。
(20/1/25追記)
・2番へのつなぎは、五度圏を左回りで一周する音階が使われています。
F → Bb → Eb → Ab → Db → Gb → B → E → A → D → F# → A#
完全4度上行をくりかえして、
1:22-1:24の2秒間で、1オクターブ
コメントでご指摘いただけたので訂正しました。
最後の D→F#→A# だけ、長三度音程の上行になっています。
聴感でDaugを感じさせる仕組みになっていたんですね。
***
今回は、田中さんの曲のなかで、
特にスケールの工夫が楽しい「PUNCH☆MIND☆HAPPINESS」を
取り上げてみました。
この曲は、完璧に歌うのが難しそうなんですが、
花守ゆみりさんみたいに緩いピッチで歌うのもめちゃ合ってる気がします。
きちんと設計されたメロディーの揺れに、偶然の歌の揺れが重なって、
作曲者の意図をこえる面白さが出ている気がしますね。
スケールを駆使しつつも
スケールから一歩飛び出た魅力があると思います。
名曲です。
***
補足:
・一般的に、ポップスは普通のスケール(本記事 黒字)だけで作ることができます。
①-④は曲中で1個も使われないこともしばしばです。
田中秀和さんの場合は、曲のここぞというところで
局所的にスケールを変化させることが多いかなと思います。
(「PUNCH☆MIND☆HAPPINESS」は、全編にわたるレアケースです)
・本記事のように、複雑なスケールで面白いメロディーをつくる方法もあれば、
普通のスケール(7音)よりもさらに音数を減らした
ペンタトニックスケール(5音)で綺麗に作曲する方法もあります。
参考:真部脩一(ex. 相対性理論) のペンタトニックスケールを解析してみよう
どちらのアプローチでも、曲のテーマに合ったスケールを適切に扱えば
いい曲をつくることができるんですね。
***
参考文献
・ 作曲基礎理論~専門学校のカリキュラムに基づいて
スケールの勉強に。
過去記事
◆田中秀和さんのスケールを聴いてみよう
http://kaho-ss.blogspot.jp/2017/01/blog-post_9.html
田中さんの単発的な使用例です。
◆上田麗奈「ワタシ*ドリ」(作曲:田中秀和) を聴いてみよう ※8bitカバー音源つき
http://kaho-ss.blogspot.com/2019/01/8bit.html
スケールのアイデアが詰まった田中さんの名曲です。
◆聴いて覚える田中秀和さんのコードワーク
http://kaho-ss.blogspot.jp/2014/10/blog-post.html
ハーフディミニッシュ・ディミニッシュコードの紹介。
◆田中秀和さんのオーグメントコードを聴いてみよう (田中さん特集2)
http://kaho-ss.blogspot.jp/2014/12/blog-post_7.html
http://kaho-ss.blogspot.jp/2014/12/blog-post_7.html
オーグメント(オーギュメント)コードの紹介。
◆神前暁さんがつくる魅惑の「短3度転調」
http://kaho-ss.blogspot.jp/2014/09/3.html
キー±3 の転調。
◆神前暁「chocolate insomnia」でコードの転回形を覚えよう
http://kaho-ss.blogspot.jp/2016/04/chocolate-insomnia.html
転回形の使い方。
http://kaho-ss.blogspot.jp/2015/02/lamp1.html
凝ったコードでキュートなポップス。
素晴らしい記事だと思います。定期的に読み返したいです。
返信削除田中秀和さんもMONACAも大好きなので、ほかの曲でも今後とも更新、楽しみにしています。
こんにちは。お読みいただきありがとうございます。いつも以上に正確でない内容ですが、楽しんでいただけて嬉しいです。
返信削除今後ものんびり更新してまいります。
こんばんは!punch mind hapinessの解説ありがとうございます!とてもためになりました。
返信削除ちなみに、イントロのⅡmってⅡドリアンとなってますが、ブラスのフレーズがA G#となっているのでクロマチックではないんでしょうか?
こんにちはkanoさん。お読みいただきありがとうございます。
返信削除イントロのところ、確かにそうですね! 動き小さいのでサラッと流していましたが、クロマチックの方がいいですね。修正いたします。
ちゃんと読んでいただき嬉しいです。ありがとうございます。
> F → Bb → Eb → Ab → Db → Gb → B → E → A → D → G → C → F
返信削除ここ「F → Bb → Eb → Ab → Db → Gb → B → E → A → D → F# → Bb」の誤りですかね
こんにちは。お読みいただきありがとうございます。
返信削除あ! 確認したら間違ってました。。すみません。最後の三音でaugになっていますね。
さっそく訂正させていただきます。ご指摘ありがとうございます。