2018/07/09

MonoTreeファンヒョンの傑作ポップスを聴いてみよう

ぼちぼち更新できそうです。

今回は、韓国の作曲家グループ「MonoTree」のチーフプロデューサー、
ファンヒョン(황현, Hyun Hwang)のポップスを聴いてみましょう。

綺麗なクリシェや、
得意のコード(I△7 - VIIm7 - III7 - VIm7 - Vm7 - I7 - IV△7)、
テンションノートを丁寧に解決するメロディーラインが魅力です。

MONACA田中秀和さん、Lamp、沖井礼二さんがお好きな方におススメ。
ポップスのお手本のような素晴らしい作曲技術です。

曲目
1. ELRIS - Pow Pow
2. 少女時代 - Snowy Wish
3. Red Velvet - Day 1
4. ONF - Cat's Waltz
5. 少女時代 - One Afternoon
6. My Afternoon - Off Road
7. YeoJin (LOONA) - Kiss Later
8. 東方神起(TVXQ) - How Are You
9. ELRIS - You and I
10. Red Velvet - Hear the Sea


■1. ELRIS - Pow Pow

ファンヒョン・Megatoneの共作です。
この曲を初めて聴いて、めっちゃめちゃ作曲上手い方だ! と感動しました。
何回聴いてもすばらしいです。

前奏        Aメロ       Bメロ         サビ         間奏
0:00       0:14         0:25          0:37       0:57-
          -5           +3            -3           +5
Gmaj   -   Dmaj   -    Fmaj   -    Dmaj      Gmaj
(Emin)                                                 (Emin)

きれいな短三度転調(±3)をはじめ、
ポップスの美味しい文法がてんこ盛りです。
これを3分の尺にまとめ上げることができるのって凄いです。

イントロ0:03-で、ベースとギターがオクターブで重なるフレーズがでてきて、
サビ前0:36- の「でででーん」 でカッコよく再登場する、というアイデアですね。
この「でででーん」がとても好き。

続きます。

■2. 少女時代 - Snowy Wish

ワクワクする素敵なイントロ。
0:40-サビのコードとか聴くと、
MONACAサウンドがお好きな方はこれこれ!となりそうですね。
0:50- のIIIm7b5とか大好きな使い方です。

3:04- ラストサビもめちゃイイですね。
コードはサビから変えずに、新しいメロディーを載せる試み。

こちらは、2010年の作だそうですが、
昔から作風が確立していたんですね! 知るのが遅かったです。


■3. Red Velvet - Day 1

こちらは渋谷系なサウンド。名曲ですね。
0:50- サビ前の上行めちゃイイ感じです!
0:59- サビは、沖井礼二さんみたいなベースラインがたまらないです。
2:57- アウトロのピアノが大好き。
 そのまま終わるかと思わせて、もう一度サビが登場して終わります。
 終わり方も一音でスパッと閉じるところが素晴らしいですよね。


■4. ONF - Cat's Waltz

ファンヒョン・Nopariの共作です。こちらはハーモニーが綺麗。
0:47- のサビ、これだけ音圧とりつつ美しいコーラスが書けるんですね。
1:10- サビ後半には bVIIdim7みたいな甘々なコード!
1:47-  2番のBメロも、1番からのリハーモナイズがあって素敵。


■5. 少女時代 - One Afternoon

ファンヒョン・Agnes Shin(신아녜스)の共作です。ボサノバ風に。
作曲は明確な特徴がありながら、編曲はバリエーション豊富なんですね。

クリシェや対旋律の上行が好きな方にとてもおすすめな曲です。
0:40- サビが美しく、0:45-の対旋律の上行が大好きです。
 しっかりブラジルな和音の雰囲気がありますね。
2:42- ラストサビで加わるストリングスの対旋律も綺麗。


■6. My Afternoon - Off Road
こちらはまた趣向が変わって、かなり和音付けに凝ったAORなサウンド。
0:54- このサビの構想、天才ですね……。

0:54- サビ前半
| C7sus2    C△7            |   Ab      -      |  Bbsus4     Bb    |  Eb△7   -    |
  I7sus2   I△7   [key+3]   IV                   Vsus4      V         I△7         

|  Dm7    Gaug・G7   |  Bbm7     Eb/G    |  B△7    -    |  Fm7/Bb    - |
  VIIm7   IIIaug III7      Vm7     I / III      bVI△7           IIm7/V

1:15- サビ後半
|  E7sus2     E△7              | B    ……(以下略)
  I7sus2     I△7  [key+3]   IV   …

サビ頭でセブンス→メジャーセブンスは初めて聞きましたが、
めちゃカッコイイです。
sus2にして(3rdを抜いて) 長短をぼかしているんですね。渋いです。
Vm7 → I/III と転回形につなげるのも新鮮。

3:06- ラストサビはリズムが4つ打ちに変わって、こちらもかっこいい。



■7. YeoJin (LOONA) - Kiss Later

この曲、Pow Powに並んで特に大好きな曲です。
めっちゃファンヒョンサウンド。
繊細なコードワークを、可愛さとポップさで包み込んだ傑作です。

1:13- サビのハモリを聴くとわかりやすいですが、
テンションノートをちゃんとコードトーンに解決するのですよね。
ここまで律儀に解決するのは珍しく、ファンヒョンサウンドならではだと感じます。

1:04- サビ前の動きをみると
| VIm7    I△7/ V    |   IV            Iadd9/III       |
| bVII△7               |   V7sus4     I7sus2    I7  |

サビ
1:13-
     IV
([key+5] I)

サビ頭で下属調(+5)へ転調します。
この転調は通常 Vm7 - I7 - IV で組むところですが
代わりにV7sus4(4度堆積) → I7sus2(3rd抜き) の和音を置いて、
少し調性をぼやかしているのですね。凝ってます。


■8. 東方神起(TVXQ) - How Are You

サビのメロディーがとても好きな曲。
AメロBメロはシンプルなのですが、
サビ0:42-で合いの手のように入る「レドミ♪」の3音がとてもいいですね。

何より素晴らしいのが、間奏2:49-からの流れ。
予想外のストリングスから、
全力でラストサビ3:10-に突っ込む構想が見事です。


■9. ELRIS - You and I

こちらもボッサなサウンド。初期のLampにも似ていてとても好きな曲。
サビ前0:50-で II →IIaug(てってっててってーん)から
属調(V度調、key-5)に転調します。

サビで3声コーラスが入ります。キレイ。
前にも書いたのですが、1:19-1:26のメロディーが大好き。
2:51-のシンセトランペットも良い味です。


■10. Red Velvet - Hear the Sea

8分の12拍子に、タメのないハイハットが入って独特なリズム。
この曲も素敵な転調ですね。

サビ前 0:45-
        ラ ド ソ            ミb  レ   
|  IIm7          |  Vaug             #Vaug |

サビ 0:50-
#I△7         |
 ( [key+1] I△7)

サビで短2度転調(key+1)しますが、よく聴くと1拍前の
#Vaug  (=bVIaug)  によって先に転調されているんですね。
メロディーのド(実音E)もコードの構成音になっているので、
自然な繋がり方になっています。

1:06- 急にこういうメロディーを差し込めるのが凄いです……。
2:09- Dメロからラストサビまで、作曲上手すぎて改めてびっくりします。



聴いていただいた通り、どの曲も3分台で端的に組まれています。
ポップスの美味しいところだけを凝縮したサウンドなんですね。


参考記事です。

◆【緊急特集】K-POP界で躍進を続ける作曲家集団MonoTree ...頭角を現す中心メンバーのひとり ファン・ヒョン作品の魅力に迫る
http://secretofterra.blog.fc2.com/blog-entry-1219.html

「ファンヒョン作品っぽいコードワーク」に触れられています。
とても的確なご指摘で、すばらしいまとめです。


本ブログの過去記事です:

◆聴いて覚える田中秀和さんのコードワーク
http://kaho-ss.blogspot.jp/2014/10/blog-post.html

◆田中秀和さんのオーグメントコードを聴いてみよう
http://kaho-ss.blogspot.jp/2014/12/blog-post_7.html

→ MONACA所属の田中秀和さんも、作曲作法がだいたい一緒なので
 こちらの和音がわかるとより楽しいと思います。

 独特で卓越した作曲技術をお持ちなので、
 田中さんもファンヒョンさんも、先生と呼びたくなりますね。
 ファンヒョン先生。

5 件のコメント:

  1. 久しぶりの更新ですね!
    ファンヒョンさん、知りませんでした…!
    どの曲も素晴らしく綺麗にまとまったコードワークで感心してしまいます、また好きな曲が増えていく…

    最近私も良い曲を見つけたのでお薦めさせて下さい…!
    「にゃーろんず」というバンドの「ハルカカナタ」や「でっかい世界とちっちゃい僕ら」、いずれもbassyさんという方が曲を提供しているのですが、メロディが美しくて魅力的なのです…!bassyさんの曲はゲームの「イロトリドリのメロディ」という曲や「カンデコ」等、どれも良いので是非…!

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  2. こんにちはWind Amariusさん。お読みいただきありがとうございます。

    「にゃーろんず」ご紹介ありがとうございます!
    bassyさんの曲を初めてお聴きしましたが、このメロディーはペンタトニックスケールですね! 僕はペンタトニックが大好きなので、bassyさんのメロディーはとてもツボです。

    サウンドの感じで、相対性理論フォロワー的なプロジェクトかなとお見受けしました。真部脩一さんというより、やくしまるえつこさん(Tica・α)の作曲に似た感触があり、新鮮な感じがしました。
    パスピエがお好きな方にもおすすめできそうです。

    編曲はシンセ主体で現代風なところがにゃーろんずのオリジナリティですね。声の感じと合ってて癒されます。海外の方のコメントが多いのもわかる気がします。

    bassyさん名義の曲をお聴きすると、渋谷系の雰囲気があったりしてこちらも素敵です。茶太さんと組まれていたのですね。

    僕のツボにピッタリなご紹介で、誠にありがとうございます。

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  3. kahoさん、はじめまして。イルリキウム(@I_verum43)と申します。
    真部氏、沖井氏、田中秀和氏が大好きな楽理の徒なので、kahoさんの記事をかねてより拝読しておりました。
    心を打つコードワークについての過不足無き解説、非常に解りやすく、いつも感激しております。

    本記事のファン・ヒョン先生、存じ上げませんでしたが、大注目ですね……!
    6曲目のOff Roadが特にツボです。
    Ⅰ7sus2→Ⅰ△7とは恐れ入りました。メジャーセブンスに動くということで、コード面だけだと開放感があるイメージでしたが、なかなかタイトな進行でセクシィです。

    話は逸れますが、Wake Up, Girls!の楽曲をまとめた『WUG関連楽曲解説』なるレビューを、先月に制作致しました。
    その中で、kahoさんの記事を引用させていただいた箇所(p38、文献p58)がございます。
    【こちらからご確認ください→http://twitdoc.com/9XYK】

    事後報告の無礼をお詫び申し上げます。
    もしも、公開に際して問題がございましたら、お知らせください。該当箇所の削除など対応いたします。

    それでは、これからもkahoさんが紹介される曲を楽しみにしております!

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  4. こんにちはイルリキウムさん。お読みいただきありがとうございます。
    真部さん沖井さん田中さんがお好きなのですね。真部さんが並びに入っているのは(私も一緒なのですが)貴重で嬉しく思います!
    こちらのブログは楽理的にはあまり網羅性が無く、つまみつまみの内容で恐縮ですが、いつも読んでいただけて幸いです。

    ファンヒョンさん、お気に召されたなら何よりです。なかでもOff Roadは面白い構想ですよね。定番の作曲技法を使いこなすだけでなく、こういう新しい方法で人を感動させられるのは素晴らしいですね。

    『WUG関連楽曲解説』拝読しまして、その熱量に惚れ惚れしました。これだけ深く聴いていただけると、作り手の方々もさぞ嬉しいのではないかなと思います。(WUGさん解散の話は誠に残念ですが……)
    私は聴けていない曲が多いので、網羅的なこちらの資料を参考にすこしずつ聴いてまいりたいと思います。宮川弾さんが曲提供されていたのですね! 存じ上げませんでした。

    当ブログの引用についてもわざわざご連絡いただきまして、ご丁寧にありがとうございます。不正確なところも多いと思いますが、何かの参考になりましたら幸いです。
    今後ものんびり更新してまいります。

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  5. レビュー読んでくださったんですか!
    アニメ評と感覚論、楽理がごちゃ混ぜになった代物で恐縮です……。
    宮川さんの『王様のカデンツァ』ですね。落ち着いていながらも軽やかなタッチで素敵な曲です。

    ありがとうございます!
    「好き」に対する裏付けは大切だと思っているので、『いちにの』さんのようなブログの存在はとても嬉しいです。
    今後ともよろしくお願いします。

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