日本のバンド「Lamp」の名曲を、コード譜とともに聴いてみます。
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「雨降る夜の向こう」と、「八月の詩情」の2曲を紹介します。
Lampの聴き取りは音楽好きな人向けですが、
Lampの音楽はとびきり甘くてキュートなので、誰にでもオススメします。
コードは僕の聴き取りなので、めちゃめちゃ間違っていると思います。
雰囲気だけ味わってみてください。
面白い和音が盛り沢山なので、作曲の勉強にもどうぞ。
(15/06/20 「雨降る夜の向こう」の後半部を追記しました)
↓
Lampの和声を追いかけるには、
ポップミュージックのコード理論をひと通りおさえておく必要があるかもしれません。
(なので、僕では聴き取りが難しいです)
その結果、いつもよりスーパー難しい記事になってしまいました……が、
Lampの遊びが詰まっているので、興味ある方は拾い読みしてみてください。
下記はシンプルな内容なので、こちらもどうぞ。
◆Lamp特集① Lampの名曲とディミニッシュコードの響き
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1. Lamp - 雨降る夜の向こう (作曲:染谷大陽)
のんびり夢見心地で楽しめる素敵ポップス。
この動画中の
オレンジ:染谷大陽さん、紫:榊原香保里さん、黄色:永井祐介さんです。
オレンジ:染谷大陽さん、紫:榊原香保里さん、黄色:永井祐介さんです。
◆ 0:00- 前奏
Am9 A△9 Am9 A△9 ( Im9 I△9 Im9 I△9 )
・9thコードをマイナー・メジャーで切り替えています。
Lampは、9thの響きを好んで用います。注目して聴いてみましょう。
あめ に なれば ど しゃぶ
Aadd9 F#m7 Dm9 Gaug G6 ( Iadd9 VIm7 【key+3】 IIm9 Vaug V6 )
りの よるが このまち に のこ
Fm9 Bb7(9,13) Eb△9 Ab7b5 Ab△7 ( 【+3】 IIm9 V7(9,13) I△9 IV7b5 IV△7)
す なが された じ
Bm7 E9 Ebm9 Ab aug7 ( 【+6】 IIm7 V9 【+4】 IIm9 Vaug7 )
かん を わすれて しま
Db△9 G7b9 C△9 F△7 ( I△9 【-1】 V7b9 I△9 IV△7)
う み ずを
E△7 E9 Eaug7 Aadd9 ( 【+4】 I△7 【+5】 V9 Vaug7 Iadd9)
・ツーファイブの連続で転調していきます。
調性をかくと、
A→C→Eb→A→Db→C→E→A で、オクターブ2周分の転調かなと思います。
+3 +3 +6 +4 -1 +4 +5 = 24
遊び心満載の和声ですが、きちんと美しいメロディーラインが成立しています。
まるで波乗りのような。
・Vaug (ソ シ レ#) というオーグメントコードが3回入っています。
メロディーラインが「#レ」音を担当しているので、オーグメントの響きが強調されます。
こういうメロディーの組み方が素敵。
◆ 0:42- Aメロ後半
みず を はね るおとも
Aadd9 F#m6 Fm7(9,11) Bb6 ( Iadd9 VIm6 【key+6】 IIm7(9,11) V6)
とお く めを とじた ま
Eb9 Ab△9 Am7 D9 ( I9 IV△9 【+4】 IIm7 V9)
ま みえないきもち みえない そ ら
G△7/B Bb add9 Am D9 Cm6 ( I△7/III bIIIadd9 IIm V9 IVm6 )
を さがし て る
Em7sus2 Cm9 Am9 Cm9 ( VIm7sus2 IVm9 IIm9 IVm9 )
か ら
Daug7(b9) D7(b9) ( Vaug7(b9) V7(b9) )
・マイナーコードの平行移動があります。 IVm VIm IVm IIm IVm
転調っぽく聴こえてとても面白いです。
IVm→ VImは珍しい動きだと思うのですが、「さち子」にもありますね。
染谷さんっぽいコード。
◆ 1:13- サビ
これいじょう まてないわ あなたからのつうしん
G Gdim7 Am9 D9 ( I Idim7 IIm9 V9 )
あいしてる そういってく れた ひとはど こ
G/B Bb dim7 Am9 D7(b9) Am9 ( I/III bIIIdim7 IIm9 V7(b9) 【+2】 Im9 )
・Lampのディミニッシュコードって超良い音です…。
ディミニッシュの響きが大好きになります。
・2回の繰り返しが丁寧に対置されており、とても美しいです。
I → I/III :第1転回形に置き換え
Idim7 → bIIIdim7 :第1転回形に置き換え
V9 → V7(b9) :9thをb9thに置き換え
・転回形をもちいたことで、
2回めのベースラインが半音下行(ミ ミb レ)になっています。いいアクセント。
最後の9th(開放的)とb9th(切なげ)の対比も、細かな響きの違いが美しいです。
・メロディーも相まって、榊原香保里さんの声が素敵。
初めて聴いたこのサビのこの声で、Lampを好きになりました。
(15/06/20 追記)
リクエストが有りましたので、曲後半のコードを聴き取りました。
◆ 3:46- 大サビ
ちりばめられた うてきの かがやきに
C△7 Cm△7 Bm9 Eaug7 E7 ( IV△7 IVm△7 IIIm9 VIaug7 VI7 )
にぶく いろどる
Am9 D7 (IIm7 V7 )
まちを よる をこ えた
C#m7 C△7 Bm7 Dm7 G7 ( #IVm7 IV△7 IIIm7 Vm7 I7 )
ふたり そら にとめた
C#m7-5 F#m7-5 B7 ( #IVm7-5 VIIm7-5 III7 )
シ ル エット おり な
Em△9 Esus4 Cm Bm7 E7 (VIm△9 VIsus4 【+5】 Im VIIm7 III7)
す にじは あめふる よるの むこう
Dm7-5 Gaug7 Cm9 C△9 (IIm7-5 Vaug7 Im9 I△9)
Cm9 C△9 Cm9 C△9 Cm9 C△9 ( Im9 I△9 Im9 I△9 Im9 I△9)
・一番の盛り上がりどころは「(夜を超えた)ふたりー」の部分ですが、
ハーフディミニッシュ (m7-5) を使った求心的な進行になっています。
キメのコードですね。
・m△7、m△9、aug7 など、オーグメントを含む和音がとても綺麗です。
惚れ惚れ。
***
2. Lamp - 八月の詩情 (作曲:永井祐介)
永井さんの和声感覚から生まれる、ふしぎなバラード。
どうしてこんな曲が書けるんでしょう。
◆ 0:00- 前奏
E△7 E△7 E△9 E△9 C△9 ( I△ I△ I△ I△ bVI△9)
・先ほどと同じく9thの響きがします。
bVIが一瞬マイナー転調っぽく聞こえますね。
◆ 0:14- Aメロ1
しろくうかぶ プラット フォームに
E△7 A#m7b5 A7(9,#11) ( I△7 #IVm7b5 IV7(9,#11) )
おりた つ あしお と
E/B C#m9 D9 ( I/V VIm9 【key+3】 V9 )
がらんとしたかいさつ とおりぬけたら
G△9 C△9 ( I△9 IV△9)
そらはくずれた
A9 A/B F△7b5 ( II9 【key-3】 IV/V bII△7b5 )
◆ 0:41- Aメロ2
やけつく ひざしに やられて
E△7 E7 A#m7b5 A7(9,#11) ( I△ I7 #IVm7b5 IV7(9,#11) )
(以下繰り返し)
・赤字のA7(9,#11) というコードは、オーグメントコードの仲間です。
(コード表記しにくいので、便宜的にこう書いてみました)
7,9,#11(レ# ソ シ)の3音がオーグメントを構成していて、多幸的な音がしますね。
Eb aug7/A とも書けます。
・永井さんのハーモニーには、
こういったオーグメントっぽい・全音音階っぽい響きがよく登場します。
聴いてて幸せ。
・青字のF△7b5は、メジャーセブンスフラットファイブ(フィフス) というコードです。
(1,b5,7) の4度堆積が特徴的なコード。
普通の3度堆積和音と違って、宙に浮いた感じの、別世界の響きがします。
bII△7b5は、Isus4の根音の半音上方変位になっています。Iへのつなぎとして。
◆ 1:05- Bメロ
あいの ささや き さえ
A/B Am9 G△9 ( IV/V 【key+3】 IIm9 I△9 )
おかしくひびいたまひるのしずけさ
Am9 G△7(9,13) ( IIm9 I△7(9,13) )
なつのひ きがとおくなる
Bm6 A△9 A9/G ( 【key+2】 IIm6 I△9 I9/bVII )
ほどの ー
Dadd9/#F Dm6/F ( IVadd9/VI IVm6/bVI )
E6 Eaug Eaug(9)/Bb ( V6 Vaug Vaug(9)/bII )
・青字「なつのひー」からベースが順次下降します。 レ ド シb ラ ラb ソ。
このように、分数コード(転回形)を多用して
ベースラインを綺麗に繋ぐのが永井さんっぽい作曲作法と思います。
・最後のオーグメントコードも、Aメロで登場したものの仲間です。
サビへ向けて求心的につなぐ使い方。
◆ 1:35- サビ
サマー サマードリーム
A△9(13) D7(9,#11) C#9 ( I△9(13) IV7(9,#11) III9 )
ぼ く ら の す ぐ そ ば
F#m add9 A△7/E Ebm7b5 Ab7 ( VIm add9 I△7/V #IVm7b9 VII7 )
に ー まだ わ か
A△7 Am△7b5 Am ( 【key-5】 IV△7 IVm△7b5 IVm )
い ぼ くら の
G△7 F△7 E6 Bb add9 ( bIII△7 bII△7 I6 #IVadd9 )
・サビの分厚いコーラスがたまらないです…。
やっぱり、そもそも歌声が好き。
・赤字は、同じくオーグメント系のコードです。
オーグメントコードは普通経過的に使うのですが、Lampだとメインエンジンになります。
・青字のAm△7b5は、マイナーセブンスフラットファイブ(フィフス) というコードです。
こちらも(1,b5,7) の4度堆積が入っています。
Adim△7 とも書けるので、ディミニッシュの仲間です。
普通のサブドミナントマイナー(IVm)の置き換えとして IVm△7b5 を使っています。
ディミニッシュにメジャー7thの鋭い響きが加わって、不思議なサウンドに。
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★おまけ:分数オーグメントコードについて
上記で沢山登場した、
永井さんの浮遊感のあるオーグメントコードについて考えてみます。
(さっき思いついたので、教科書があればぜひ教えて欲しいです)
オーグメントコードは、全音音階から生まれます。
全音音階: ド レ ミ ファ# ソ# ラ#
これをひとつ飛ばしで並べることで、オーグメントコードが2個作れます。
①ド ミ ソ# ②レ ファ# ラ#
このまま個別に使うと普通のオーグメントコードですが、
②のうちの1音を選んで、①のベースに置いてみます。
すると、こんなコードが作れます。
Iaug / II (ド ミ ソ#) / レ 他にも Iaug/#IV、 Iaug/#VI、IIIaug/ II など色々。
オーグメントコードがベースから浮いた感じの、素敵な響きになりました。
ポイントは、上声部とベースで別系統の音を持ってくること。
永井さんの曲に出てくるオーグメントコードも、主にこの構成で作られています。
ただ、使い方が全然わからないので
Lampの曲に触れてみて、勉強してみましょう。
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★まとめ
以上2曲紹介しました。
コードワークだけに注目しても、この凝りっぷり。
Lampってどれだけ音楽好きなんだろう! といつもびっくりします。
凝っているのに(凝っているからこそ)、音は甘くて直感的に素敵。
コードとか何も考えずに、音楽に浸ることができます。
Lampを聴いていると、新しい響きや音色が好きになるし、
音楽そのものがどんどん好きになります。
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染谷さんと永井さんの作曲はとても似ていますが、
僕のふんわりしたイメージだと
染谷:ベースラインを大きく動かして、進行感を強める
永井:ベースラインを転回形で繋いで、進行感を弱める
という傾向があるかなと思いました。
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Lamp特集①はこちらです。易しめ。
◆Lampの名曲とディミニッシュコードの響き
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過去記事
◆「さち子」の作曲をみてみよう (Lamp「ゆめ」より)
「さち子」の聴き取り、耳コピ音源です。
◆神前暁さんがつくる魅惑の「短3度転調」
短3度(key+3, -3)の転調について。MONACA神前暁さんの明快な使い方。
◆田中秀和さんのオーグメントコードを聴いてみよう
MONACA田中秀和さんのオーグメントについて。Lampと似た運用があります。
◆ハナエ・真部脩一の「神様の神様・おとといおいで」を褒めよう
真部脩一さんの作詞について。
Lampの「 雨降る夜の向こう」のコード分析すごいですね。「鏤められた雨滴の輝きに・・・」以降のコードも知りたいです。
返信削除こんにちは。お読みいただきありがとうございます。
返信削除間違い多いと思いますが、時間あるときに更新してみますね。
気長にお待ちください。
久々覗かせていただいたら、何と「雨降る夜の向こう」続きが・・・。感動です。ありがとうございます。
返信削除こんにちは。読んでいただけてうれしいです。
返信削除今後もちょこちょこ記事を書いていきます。