真部脩一さん(ex.相対性理論)がプロデュースする
ハナエさんの新曲
「神様の神様・おとといおいで」(iTunes配信中)を聴きました。
ハナエさんの新曲
「神様の神様・おとといおいで」(iTunes配信中)を聴きました。
いつも以上に素晴らしい作品!なので
褒めようと思います。
◆神様はじめました◎ 第1話公式視聴
つれづれなるままに書いたため、色々な話題が出てきます。
時間があるときにでも、話半分で読んでみてください。
(追記)
「神様の神様」「おとといおいで」が収録された2ndアルバム「上京証拠」がでました!
よろしければこちらもどうぞ。
■ハナエ・真部脩一の「上京証拠」をみつけよう
「おとといおいで」
主に歌詞・歌唱についてメモします。
とても落ち着く歌。
詞については、いつも以上に門外漢なのですが
どんな構成になっているか、ちょっとみてみたくなりました。
(追記) CD買ったので、歌詞カードに従って直しました。
↓
◆1. 時間
「もしも今日が あしたじゃなくて昨日なら
あしたが今日で 昨日はおとといだ」 (サビ)
という不思議なフレーズがあります。
これに類するフレーズは曲の中で3回現れるのですが、
1番、2番、3番で単語の順序が異なります。
語句の並びを抜き出してみると
1. あした → 今日 → 昨日 → おととい (過去方向)
2. あした = あした、今日 = 今日 (現在)
3. 昨日 → 今日 → あした → あさって (未来方向)
1番では過去に進むように順序が組まれていますが、
3番では反転し、未来へ向かうように並べられます。
この構成にみられるように、
「おとといおいで」は、
過去志向から未来志向へと移り変わっていく気持ちが、
「形式」に乗せて歌われている、ということが出来そうです。
◆2. メタファー(比喩)
上記の「過去→未来」を踏まえて、
歌詞中の丁寧なメタファー(比喩/暗喩)をみてみます。
1番から3番までの移り変わりに注目です。
*
1. ・「おとといおいで 待ってるよ」
・「船はここに泊まってる」
… おととい=過去で待っている、という「過去志向」が歌われます。
「船」は、本来は目的地=未来へ移動するためのものですが、それが留まっている。
確定した過去、楽しかった日々を懐かしみ、安住する心持ちとも言えそうです。
受動的な態度。
(また、「おとといおいで」という言葉は、
過去はもう取り戻せない、という意味合いも込められていそう。
そうか、EDの映像はそれを暗示しているんですね)
2. ・「ブラインドの先 窓の向こう 光のまち きれいだわ」
・「答えのいらない問いでもいいかな?」
・「ただ あしたの風が吹くように」
… 2番になると、少し趣が変わります。
ブラインド=不確定要素の先を知ろうとする姿勢と、
その向こう側を綺麗だと思う肯定の気持ち。
不確定さを受け入れる気持ちが生まれています。
3. ・「あさっての方へ舵を取る」
・「船はどこへ進んでく」
… あさって=未来へ進む、という「未来志向」が歌われます。
1番との大きな対比が見られますね。
「船」は、あさっての方=予想の付かない未来=可能性へと進んでいます。
能動的な態度。
*
このように、
サビで提示された「過去→未来」の動きと重なるようにして
・受動→能動
・確定→不確定(可能性)
といった気持ちの変化が歌われています。
◆3. 「あの日」
1番と3番には、締めくくりのフレーズとして、
「今日が今日でもなくて あの日なら ああ いいのになあ」
という歌詞が歌われています。
ここまで読んでくると、
1番と3番で、聴こえ方に差があるように感じてきます。
1. あの日ならいいのになあ : 過ぎ去った思い出を懐かしむ
3. あの日ならいいのになあ : 未来の予定を待ち望む
同じ「あの日」というフレーズでも、
歌を最後まで聴くと正反対の意味合いが込められているようです。
曲の最後に、見えない将来への期待感がほんのりと暗示されている。
そんな風に感じました。いい歌詞。
◆4. 歌唱
ハナエさんの歌唱は、「神様の神様」と比較すると、
非常に繊細なウィスパーボイスが用いられています。
この歌い方により、
長音が震え・かすれにも似た小さなビブラートを持ったり
高音への跳躍で音程が当たりきらなかったり
語尾の音量が急に小さくなったりします。
*
こういう振れは、口ずさみや、口笛や、鼻歌のような自然さを感じさせます。
たとえば、部屋の掃除をしている時に、ふと浮かんだフレーズを
ぽつりとつぶやいてみるときのような、そんな音程。
「おとといおいで」の歌詞はとても風変わりですが、
この自然な歌唱のお陰で、
日常(=浮かんでは消える日々の泡)のなかのよしなしごとが
ふと口ずさんで歌になった、というように聴こえてきます。
1番の歌い方は特にか細く、諦念的な響きすらもっていますが、
2番3番と進むにつれて少しだけ感傷・熱がこもるところも、
曲のテーマを反映していてグッと来ます。
◆5. 枕詞
最後に、旧作でもよく用いられた
真部脩一さんの作詞法「枕詞」についてみてみます。
単語の連なりを用いて、慣用句や特定の語句を導く手法です。
(以前にコメントでおしえていただきました)
「OOOPQRSTUVカット」「あいうえおっと」といった表現など。
1. あしたが今日で 昨日はおとといだ → おとといおいで
2. あしたはあした わたしはわたしだ → あしたの風が吹く
3. 昨日が今日であしたはあさって → あさっての方へ
印象的なフレーズをするっと引き出して、
とても耳に残る聴こえ方をします。
とても耳に残る聴こえ方をします。
ほかにも、「もしもし」と「もしも」をかけたり、言葉遊びにあふれていますね。
真部脩一さんは、感傷的な言葉を使うことなく、
形式や言葉の扱い方によって、叙情を表すことが出来ます。
いつも以上にロマンチック。
◆6. 印象的な音型
冒頭部に、シンセで演奏される
「ドレミソララソミ」
という短いフレーズが、
曲を印象づけるメロディーとして60回も用いられています。
このフレーズは前奏だけでなく、サビにも登場します。
曲全体に通底して、ひとつのメロディーが響いてゆく、という構成がとても好み。
(過去記事:相対性理論の音楽から、シンプルなアレンジを学ぼう
http://kaho-ss.blogspot.jp/2013/12/blog-post.html )
0:00- 前奏 「もしもし、きこえますか?」+「ドレミソララソミ」
1:07- サビ 「もしも今日が」+「ドレミソララソミ」
3:37- 後奏 「ドレミソララソミ」だけが鳴り響く
このフレーズは
真部さんの多用するペンタトニックスケール(ドレミソラ)で書かれています。
ペンタトニックは、どんなコード上でも乗せやすい、という特徴を持っているため
どんな和音とも、ハナエさんのメロディーラインとも、きれいに響きます。
*
歌詞に出てくる
「あさっての方へ舵を取る」というのは
ハナエ・真部両氏の心情・信条にも思えて、とても好きなフレーズ。
おとといおいで、名曲です。
*******************************
「神様の神様」
底抜けに楽しい曲。アニメの主題歌としてまたとない作品です。
コーラスや転調についてメモ。
◆1. コーラス
ハナエコーラス・合いの手が際立っていい感じです。
Bメロから少しずつ盛り上がっていくアレンジになっています。
Bメロ:
「月火水木金土日」 (メイン+下ハモリ)
「バイオリズムで」 (メイン+上ハモリ)
サビ:
「I'm Just Spinning -」 (メイン+上ハモリ+下ハモリ)
サビは3声のコーラス。
声質や音程感のせいか、3声が完全に馴染むというよりも、
一つ一つの声部が独立して絡みあうような聴こえ方になっています。
それぞれが個性的に響きます。
また、
サビ後半:
「最近どうなの?」 (メイン+下ハモリ)
「I'm fine thank you」 (メイン+下ハモリ)
の部分のハモリは、通常よりピッチの低い、微分音程で歌われています。
ピッチを広く使える (サッカー用語みたいだ)
というところがハナエさんの得意技で、一番の魅力だと思います。
*
以下は、作曲がらみの話題のため
大ファンのひと向けです。
↓
◆2. サビの長3度転調
サビ部分に長3度上(キー+4)転調があります。
転調部分の和音進行を書くと、おおよそこんな感じです。
図1. 長3度上への転調
転調用コードに、III7 → VI が使われていますね。
これは本来、短3度下転調を予告するためのコードです。
参考: 神前暁さんがつくる魅惑の「短3度転調」
このコードを使うことで、とても面白い効果が得られています。
丁寧にみてみます。
◆3. 転調の2段ジャンプ
上図をさらに細かく書いてみると、
図2のようになります。
図2. 短3度下転調を想起させる長3度上転調
予告コードによって、
長3度転調のまえに、一瞬だけ短3度転調が入ったように聴こえるんです。
調性の流れは、
・短3度下転調の予告(III7)により、短3度下の主和音へ転調
・短3度下転調の予告(III7)により、短3度下の主和音へ転調
↓
長3度上へ調性が移行する。
調性のきれいなグラデーションが作られています。
「いつものコード」が、巧みに組み合わされていますね。
*
では、このグラデーションを成立させるための要素として、
真部さんのメロディーラインの工夫をみてみます。
*
では、このグラデーションを成立させるための要素として、
真部さんのメロディーラインの工夫をみてみます。
◆4. ピボットノート
メロディーラインを書き出すと、このようになります。(修正しました)
図3. 2つの調でのペンタトニックスケール
サビのメロディーは、②③どちらの調上においても、
ペンタトニックスケール(ドレミソラ)になっています。
これにより、
どちらの調性上でも、「真部メロディー」として聴こえ、
なおかつ、2つの調をシームレスに行き来できるようになっています。
このような、2つの調のどちらでも使える音をピボットノートと呼びます。
ピボットノートを上手く配置して、自然な転調を作っているんですね。
*
以上のように、
サビの冒頭部は
これまでに真部脩一さんが見出したいくつもの作法(コードやメロディー)が、
からみ合って結実しています。
真部メソッドって、ここまでの拡張性をもっているのですね。
感動します。
解説するとなんか凄そうに聞こえますが、
実際は、とても簡潔できれいな構成なんです。
できればこの解説に騙されることなく、適当に読み流してもらって
実際の楽曲の響きを聴いてみてほしいと思います。
とてもきれいにつながっていて、それでいてインパクトのある音がしますね。
かっこいい。
この2曲をOP、EDに携えている
「神様はじめました◎」って最強ですね。
ハナエさん、真部さん、大地監督でほんとに主題歌賞とかとってほしいです。
(追記)
ハナエさんインタビュー記事(アニメイトHP)が公開されていました。
http://www.animate.tv/news/details.php?id=1420916668
おとといおいでの「あの日」のことや、開放する・口ずさむ歌い方の変化など
とても面白かったです。
僕が聴いた印象とほんのり近いということは、
「表現したいことが、きちんと歌や音に込められている」ことの現れかもしれませんね。
それでいて解釈の余地もたくさんあって。
かっこいい。
神様の神様サビで、真部コーラスが入ってるとは気づかなかった。
2回めの繰り返し(0:51-)Rchあたりが一番聴こえるところかも。
うれしい発見です。
◆関連記事
ハナエ・真部脩一の「上京証拠」をみつけよう
http://kaho-ss.blogspot.jp/2015/03/blog-post_8.html
「神様の神様」「おとといおいで」が収録された2ndアルバム「上京証拠」の感想です。
超良いのでおすすめ。
ハナエ・真部脩一の「十戒クイズ」を褒めよう。
http://kaho-ss.blogspot.jp/2013/11/blog-post_27.html
真部脩一(ex. 相対性理論) の「モチーフ作曲法」
http://kaho-ss.blogspot.jp/2014/07/ex.html
いつも素敵なレビューをありがとうございます。
返信削除興味深く、楽しく読ませていただきました。
(以前、真部さんの歌詞についてコメントさせていただいた者です)
「おとといおいで」はあてどない想いを神様に聞いてもらおうとささやいていた女の子が、だんだん前を向いて行く過程が真部節の不思議なフレーズで紡がれていく感じがたまらないです。
「神様の神様」では、真部さんの英語の歌詞が新鮮に感じました。
(実感としてカタカナ英語は多用していても、フレーズとして英文をつかうのは珍しいなと)
そして、この曲のように和風な雰囲気のなかに英文の歌詞をのせても、違和感のわかないところが真部さんのすごいところなのかなと思いました。
(音が和風でも底抜けに明るい曲調がマッチしているからか、理由はよくわかりませんが。)
ともかく、いつも以上に聞けば聞くほど魅力にハマってく中毒ソングで、
新年早々うれしい気持ちです。
こんにちは。お読みいただいてありがとうございます。
返信削除真部さんの歌詞いいですね。なんでこんなふうに書けるんでしょうね。
おとといおいでは、コメントいただいたとおり、
感情の微妙な変化がちらりとみえるところがとても好みでした。
「不思議なフレーズ」とあるように、
サビのメロディーや歌詞の切れ位置はいつも以上に変てこと思いました。
ハナエさんが歌うと、とても自然に聴こえるので流石です。
神様の神様は、確かに英語推しなのが珍しいですよね。
むしろ、「和風だから英語つかおう」という発想かもしれません。
笑いは裏切り、ではないですが、ちょっとの崩し=毒が必要不可欠なのだろうと思います。
英語であっても、やはり真部さんは聴感を重視している感じがしました。
aroundというより「あらーあらーあらー」という響きが気持ち良いです。
*
進行方向別通行区分の橋本アンソニーさんの記事がとても素敵でした。
http://d.hatena.ne.jp/anthony/touch/20150113
細かいことまですごいですね
返信削除ためになりました(`・ω・´)
こんにちは。色々なアイデアが詰まった曲っていいですよね。
返信削除聴く度に発見があります。