2018/11/25

ブラジル・ミナス音楽の複雑でキュートな響き

今回はブラジルのミナス音楽を聴いてみます。

ミナス音楽は、ブラジルのミナス・ジェライス州で生まれた
複雑でキュートなポップミュージックです。
Lampの染谷大陽さん、MONACAの田中秀和さんもお好きみたいですね。

ミナス音楽で特に著名なミュージシャン5人から
2曲ずつ紹介します。

1. Toninho Horta - Voo Dos Urubus
2. Toninho Horta - Céu de Brasília
3. Beto Guedes - Quando te vi
4. Beto Guedes - Pedras Rolando
5. Lô Borges - Sonho Real
6. Lô Borges - Equatorial
7. Milton Nascimento - Travessia
8. Milton Nascimento - Ponta De Areia
9. Flávio Venturini ‐ Espanhola
10. Flávio Venturini - Solidão

■1. Toninho Horta - Voo Dos Urubus

トニーニョ・オルタの魅力は、
縦横無尽に、半音で変化していく和音やギターフレーズです。
0:29- ポリリズムで半音音階を上がったり下がったりする旋律が綺麗ですね。
1:03- トニーニョ・オルタの独特なギターソロ。一音一音確かめるように、
   凝ったコード上で思いもよらない道を通ります。

2:08- 先ほどの半音フレーズが2倍に伸びたリズムで再現されます。
   ここがカッコいい! 途中からストリングスが重なって気持ちいいです。

偶成和音とか、半音で動くクリシェとか、複雑で綺麗な音楽がお好きなかたは、
トニーニョ・オルタがお気に召すかもしれません。

以下続きます。

■2. Toninho Horta - Céu de Brasília

これ、めちゃめちゃ胸キュンな曲です……。
音楽の世界はこんなに奥深くてキラキラしているんだと感動します。
ぜひお時間あるときに、通しで聴いてみてください。

0:00-1:23 イントロ。美しすぎて泣いちゃいます。
1:24- 静かに歌が始まります。最初は楽器数も少なく落ち着いた雰囲気ですが
   ここから曲の最後に向けてゆっくりとクレッシェンドします。
2:13- ストリングスの対旋律が、半音で上がっていきます。
3:11- あたりからストリングスが分厚くなって、聴いてて溺れそう。

4:02-4:10 一回目のピーク
5:09-5:15 二回目のピークを経て、
5:16- イントロが回帰します。こうやって音楽は完成するのですね。
きれいな曲。


■3. Beto Guedes - Quando te vi

先ほどの曲が濃厚だったので、続いては甘くキュートなベト・ゲヂスです。
ベト・ゲヂスの声、中性的で魅力的な声質ですよね。
(※追記)こちらの楽曲は、Meredith Willson「Till There Was You」のカバーです。
コメントで情報頂きました。ありがとうございます。
ベト・ゲヂスの作曲ではないので、記事としてはちょっとずれてしまいますが
甘い歌声と甘い作曲が素敵なので、ぜひ聞いてみて下さい。

この曲はポップスの文法がいっぱいなのでとても聴きやすいです。
0:10-  I△7→#Idim7のパッシングディミニッシュで、甘ーい雰囲気。
0:52- 半音下降のクリシェが入って
0:58- 繋ぎのVaugコードもお茶目です。
1:00- さきほどのパッシングディミニッシュが、
   I△7 → I9  にリハーモナイズされています。爽やか。


■4. Beto Guedes - Pedras Rolando

恐ろしく名曲です……。ベト・ゲヂスの声が切なげ。
イントロのフレーズは4拍子っぽいですが、
0:11- メロが始まると、6拍子が強くなります。こういうポリリズム味が好き。

冒頭はマイナー調ですが、
0:47- サビはメジャー調で一気に空が晴れるような広がりを持ちます。
よく聴くと、サビ頭の和音は一瞬b5th(#11th)が入って分厚い響き。

1:03- イントロのピアノがサビで再登場します。こういうリフレインに泣いちゃう。
2:00- イントロのフレーズと、切なげなスキャットが寄り添います。
このスキャットは、0:37, 1:35でストリングス、フルートが奏でたものを、
歌でリフレインさせたのですね。感動的。
さいごはイントロのフレーズがリピートして、静かに終わります。


■5. Lô Borges - Sonho Real

ロー・ボルジェスは、ポップなところと複雑なところが見事に混ざり合った
魅力的な音楽を作られます。
この方がポップス的に一番親しみやすいかもしれません。
アレンジも、管・弦が綺麗でとても耳馴染みが良いですね。

先ほどの曲とは逆で、イントロは6拍子に感じられますが、
0:22- 歌始まってからは4拍子が見えるようになりますね。ポリリズム。
コードは転回形の優しい響きが気持ちいいです。
転回形の柔らかい響きを多用するのがミナス音楽の特徴かなと思います。

0:22-  1回目Aメロは、ベースのペダルポイント(同一音を継続)。
1:04-  2回目Aメロは、ベースとストリングスを平行移動させて、空虚な響き。
1:47-  3回目Aメロは、ギターソロに、途中からコーラスの対旋律。
2:40-  4回目Aメロは、歌とギターのユニゾンで、温かい響き。


■6. Lô Borges - Equatorial

この曲大好きです!
讃美歌のような転回形の響きと、動き回るベースが見事に調和する曲。

0:08- 控えめなオルガンが美しいです。
0:39- サビ1回目は厳かな雰囲気。
0:52- ベースが入って雰囲気明るくなります。
   オルガン・ピアノ・ベースが、不思議と合っているのですよね。
   転回形で第三音・第五音を踏むベースラインが上品です。
1:29- サビ2回目は、1:32からベースが8分音符で細かく動くところが大好き。

2:04- 一見不似合いにも思える鋭いシンセの音色ですが、
柔らかい和声に混ざって、どことなく優しい響きに思えます。

こういう、他に比較対象がない特別な曲は、大切に聴きたくなります。


■7. Milton Nascimento - Travessia

ミナスのミュージシャンで最も有名なのが、ミルトン・ナシメントです。
異国の響きがあるのに、なぜか懐かしく聞こえる普遍的なメロディーと、
説得力のある歌声が魅力です。
「ブラジルの声」とも評されるそうです。聴くと納得。

0:20- とにかく歌声が良くて良くて……。言葉にならないです。
1:06-  サビのメロディー綺麗です。無敵のメロディー。
丁寧なオーケストラアレンジに包まれて感動してしまいます。

和音でいうと、
サビ終わり1:42のドミナントをV7でなくVm7にして導音を使ってないのですね。
何とも言えず素朴な味わい。
3:58- 終わり方も最後の一音までかっこいいです。
 

■8. Milton Nascimento - Ponta De Areia

0:25- 子供たちが歌うメロディー、
初めて聞いたときも、懐かしい感じがしました。

このメロディーは、ペンタトニックスケール(ドレミソラ)で書かれているので、
素朴で親しみやすく響きます。
それに加えて、4度跳躍をつかうことで普通のペンタトニックとは違う
特異な味も感じられます。♪ミソソラソーミー・ソーレーラレー・…
ペンタトニック、奥深いです。

1:19- これも歌声が良くて良くて……。コーラスも相まって神々しいです。
1:52- ベースが動き出して、同じメロディーも楽しい雰囲気に。

4:10- 転調してイントロの子供の歌が回帰します。
こうやってイントロとアウトロがつながるのがとても好き。

有名な曲なので、他のアーティスト版もたくさんあるようです。
・Earth, Wind, & Fire バージョン。オーケストラアレンジがキレイ。
https://www.youtube.com/watch?v=iovq9p6v1tE

・Wayne Shorter バージョン。歌はミルトンナシメントご本人。
ノリ感が増して楽しいです。途中のサックスソロも素敵。
https://www.youtube.com/watch?v=SDehAJM2PbM

どのバージョンきいても、
色褪せない普遍的なメロディーなのがわかります。


■9. Flávio Venturini ‐ Espanhola
透き通る高音が美しいフラヴィオ・ヴェントゥリーニ。
めちゃイイ曲。ギターの丁寧なアレンジと優しい歌声に包まれます。

ポップな和音のなかでも、0:31-ドミナントが第一転回形V/VIIになっていたり
優しい雰囲気が溢れています。
0:24-  メロディー①は、美しいコーラス。
0:46-  メロディー②は、オクターブの跳躍を含む動きが楽しい。
1:09-  メロディー③は、フレーズの繰り返し(ソ・レ・ミー)にときめきます。

曲の最後に、
2:57-  メロディー①と②が同時に歌われます。ぴったり馴染んでいますね。
こういう工夫が大好きです。
 

■10. Flávio Venturini - Solidão
最後はこちらの静かな曲を聴きます。良い曲……。

跳躍する3音のモチーフが、曲全体にわたって繰り返されます。
タイトルに合わせて、とりあえず「孤独」のモチーフと呼んでおきます

0:42- 歌の冒頭から、孤独のモチーフが歌われます。
1:30- 1オクターブ上げて、モチーフが繰り返され、
 トニーニョ・オルタ奏でるギターの対旋律が輪唱のように後を追いかけます。

1:59- ギターソロが先陣を切って、ストリングスが溢れます。
孤独のモチーフが重ねて歌われ、引き込まれます。なんて美しいんだろう。

2:51- 冒頭の歌のキーで、モチーフが回帰します。
3:26- アウトロのハモリがとてもとても綺麗。惚れ惚れします。


**

複雑で甘々な、ミナス音楽を聴いてみました。
もしお気に入りの音楽家が見つかれば、ぜひ深堀りしてみてください。
最近のミナス新世代の音楽家についても、そのうち色々聞いて書いてみたいです。

さらに聴いてみたい方は、
Lamp 染谷大陽さんのブログをたどってみるのもおすすめです。
ブラジル音楽カテゴリ↓ だけでも
164記事あって盛りだくさんです。
http://lampnoakari.jugem.cc/?cid=6



以前に、Lampの音楽と田中秀和さんの作曲がちょっと似てるかも、
という記事(これとかこれ)を書いたのですが、
ブラジル音楽趣味で、共通するところがあったのかもしれませんね。
4年越しでちょっと納得しました。



20/02/16 追記:新しい記事を書きました。
ミナス新世代、ダヴィ・フォンセカ(Davi Fonseca)の音楽を聴いてみよう

2 件のコメント:

  1. Lampが好きでこのサイトにたどり着き楽しみに拝見させていただいております。
    揚げ足を取る形で申し訳ないのですが、
    Beto Guedes - " Quando te vi "はビートルズのカバーで有名なMeredith Willson作曲のTill There was youのカバーで、歌詞も直訳で歌ってる気がします。ただ個性が出ていて素晴らしい曲なのでうれしいチョイスでした。
    これからも記事楽しみにしています。

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  2. こんにちはねもとさん。情報まことにありがとうございます。
    「Quando te vi」はMeredith Willsonさんのスタンダードともいえる曲なのですね。知識の抜け漏れ多く、ご指摘いただけて嬉しいです。本文に追記したいと思います。ありがとうございます。

    記事を書いていて、この曲が一番素晴らしい → スタンダードだった ということがよくあります。この曲も本当に素晴らしい楽曲ですねー。

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