聴き取りのために何度も聴いたのですが、やっぱり好き。
以下に、「さち子」の中身を見ていこうと思います。
追記:
別記事に、「雨降る夜の向こう」と「八月の詩情」のコードワークについて書きました
興味ある方はこちらもどうぞ。
◆Lamp「雨降る夜の向こう」「八月の詩情」のコードを聴こう
http://kaho-ss.blogspot.jp/2015/02/lamp1.html
↓
- コード譜
耳コピしたものをコード譜にするとこうなりました。
もちろん、僕の音楽能力だと全く聴き取れないので、割りきって書いています。
※1 実コードネームでなくローマ数字で記載
※2 耳コピのため、原曲のコードとは大きく異なります
※3 メロディーもテンション音として含めています
- 前提
■Lamp - さち子
Lampは、なぜ複雑なコードを使うのだろう。
それはおそらく、甘い音楽を作るためです。
・お菓子を例にあげると
コード進行の世界には、甘い音楽=甘いお菓子をつくるための
「砂糖」がいくつもあります。
一方Lampの多用するディミニッシュコードやオーグメントコードは、
「塩」みたいなものです。
それ自身は甘くなく、単体で鳴らすとしょっぱい音がします。
なので、特にポップスだと使いにくい。
でも、甘さの中にひと摘みの塩を効かせることで、甘さが引き立ちます。
塩の対比効果と呼ばれるものですね。
上手く使えば、砂糖の甘さを超えることができる。
これと同じことが、コードワークでも言えます。
単体では小難しく聴こえる和音でも
うまく組み合わせることで、目も眩むような甘さを作り出すことができる。
Lampは複雑なコードをうまく操ることで
とびきり甘いポップスが書けるわけですね。
- 楽曲構成
はじめに楽曲の構成から。
流して聴くとすんなり聴けてしまうのですが、とても凝っています。
主にA、B、Cの3つのパートの組み合わせからなります。
1番. A1 B1 C1 D
2番. B2 C2 A2 E
3番. B'3 C'3 F
A : Aメロ(前奏) フルートパート
B : Bメロ 女声パート (なつのおわりのー)
C : サビ 男声パート (いまー)
D,E : 間奏
F : 後奏
順番に見ていくと、
■1番はA B Cの並び。
■2番はなんとB C Aの並び。
■2番はなんとB C Aの並び。
前奏A2が再登場します。永井さんの「いつかはこんな風に-」の所。
冒頭、フルートで奏でていたフレーズが再度歌われます。
ここに前奏が回帰するとは驚きです。
C2→A2という流れは、あまりにも自然に接続されているため、
一聴して気づかないほど。
一聴して気づかないほど。
前奏のAパートは、
A→Bの連結だけじゃなく、C→Aの連結もうまくいくように
計算されて生み出されたフレーズになっています。
離れ業です。
離れ業です。
そして、最後は3番です。
■3番はエンディングに向かってのB、Cの変奏。
B'3 は、男女コーラス「あー」 のみで歌われます。
こんなポップスってあるだろうか。「あー」だけって。
僕はここが一番好きです。
(追記:ライブで聴いたら 「だばだー」な感じでした。いいなあ)
こんなポップスってあるだろうか。「あー」だけって。
僕はここが一番好きです。
(追記:ライブで聴いたら 「だばだー」な感じでした。いいなあ)
C'3 は、途中で全く新しいメロディーへ移行します。
コーダの盛り上がる感じ。
サビのメロディーを、更にブラッシュアップするような動きを見せます。
楽曲の構成だけ見てもアイデア満載ですね。
こだわりが見て取れます。
- コード進行①半音上行クリシェ
Lampのコードの特徴は、オールラウンダー、という感じです。
過去のポップスの文法(=砂糖から塩まで)を余すところなく扱っています。
そのため、Lampのコードを分析しようと思うと、
ポップスの文法そのものの説明に近くなり、扱いきれません…。
今回は、特徴的なコードのみ取り上げることにします。
前奏Aパートの7、11小節目に特殊なコードがあります。
・7小節目 IIm7 → IIm△7 (レ・ファ・ラ・ド → レ・ファ・ラ・ド♯)
・11小節目 IV△7 → IVaug△7 (ファ・ラ・ド・ミ → ファ・ラ・ド♯・ミ)
コードを構成する音の一つが、ド→ド♯ (実音でE→F) と動いています。
聴き手は、「この音は何処へ行くんだろう?」とドキッとします。
内声の一音が動くことをクリシェといいます。
一度聴いたら耳から離れない音です。
ド♯の音は不協和で、一瞬、不安や切なさを感じさせます。
このコードは、ポップスではめったに聴かれませんが、
ブラジル音楽の巨匠、トニーニョ・オルタの楽曲で登場します。
■Toninho Horta - Manuel, o Audaz
0:29, 0:49, 1:04 など。共通するギターの動きがわかるでしょうか。
胸が締め付けられる音です。
さち子作曲者の染谷さんは、トニーニョ・オルタを敬愛しており、
トニーニョ・オルタの音楽が、さち子を生み出した原動力となったのだろうと思います。
(キーもE-Majorで共通しています)
このコードによって、切なげな甘さをつくっているんですね。
- コード進行②ディミニッシュコード
サビのコードをみてみます。
サビの最も盛り上げるべきところで、3つのディミニッシュコードが使われています。
・43小節目 ① bVI dim7
・44小節目 ② V dim7
・46小節目 ③ bIII dim7
一般的な感性だと、ディミニッシュコードはワンアクセントで経過的に使うもの、
という印象があるのですが、
Lampでは驚くことにメインエンジンになっています。
ディミニッシュコードは
単体で聴くとお化けでも出そうな変な和音なのですが、
さち子ではこれ以上ないくらい感動的な音で響いています。
すごいなー。Lampマジックです。
参考:ディミニッシュの使い方 -1- (yoshikazu sagitani様)
ディミニッシュコードというのは、和音の積み上げ方が特殊なため
全部で3パターンしかありません。
なんと、この3パターンがサビの①②③に該当します。
利用できる全てのディミニッシュコードを、
たった数十秒のサビの中に余すところなく突っ込んでるんですね。
ディミニッシュから得られる響きを使い尽くす発想です。
ロマンチック。
青字の#IVm7b5 は、ハーフディミニッシュとよばれるコードの類で
これもまたディミニッシュの仲間です。
心を掴まれる切ない音がします。
サビに使えるコードってまだまだあるのだなあ。
こういうLampの挑戦を聴くと、音楽はまだまだ深いなあと感じます。
(2014/03/21 追記)
作者の染谷さんのブログに、ディミニッシュコードに関する記載がありました。
書かれたのは2004年、もう10年も前の記事です。
■こぬか雨はコーヒーカップの中へ「ビートルズとディミニッシュコード」
http://lampnoakari.jugem.cc/?eid=62
Lampのディミニッシュコードへのこだわりは、
ビートルズに端を発するところがあるのですね。
George Harrison - Isn't It A Pity
この2つめのコードがディミニッシュの音です。
なんともいえず切なくて好きな音です。
この染谷さんの記事には、
「dimコードは全部で3種類」という記述もありました。
やっぱり「さち子」では、意図的に3種類使ったのだろうと思います。
また、今回詳しく触れませんでしたが、
ディミニッシュコードは、永井さんの楽曲で顕著にあらわれます。
名曲「ひろがるなみだ」のサビにも出てくるので注意深く聴いてみてください。
作者の染谷さんのブログに、ディミニッシュコードに関する記載がありました。
書かれたのは2004年、もう10年も前の記事です。
■こぬか雨はコーヒーカップの中へ「ビートルズとディミニッシュコード」
http://lampnoakari.jugem.cc/?eid=62
Lampのディミニッシュコードへのこだわりは、
ビートルズに端を発するところがあるのですね。
George Harrison - Isn't It A Pity
なんともいえず切なくて好きな音です。
この染谷さんの記事には、
「dimコードは全部で3種類」という記述もありました。
やっぱり「さち子」では、意図的に3種類使ったのだろうと思います。
また、今回詳しく触れませんでしたが、
ディミニッシュコードは、永井さんの楽曲で顕著にあらわれます。
名曲「ひろがるなみだ」のサビにも出てくるので注意深く聴いてみてください。
- アレンジ
その理由は、ベース音の使い方にあると考えました。
A,B,Cパートの冒頭は、コードが「I」で キーが「E-major」なので、
ベース音は共通の「E」音で始まります。
ベース音は共通の「E」音で始まります。
ただし、よく聴いてみると、オクターブが異なります。
Aパート冒頭 : E2
Bパート冒頭 : E2
Cパート冒頭 : E1 (1オクターブ低い)
C(サビ)冒頭のベース音だけ、
ほかのパートより1オクターブ低い、E1という音程で始まります。
つまりサビに入ると、急にベース音がドンっと下がるので、
音域が広がった感じ=開放感 を聴き手に与えているのです。
ほんとに丁寧に作られていますね……。
このE1という音程は、4弦ベースの最低音(4弦の開放弦)にあたります。
初めてベースを触ったとき出す音がE1なわけです。
その音がサビに鳴り響くのはなんだかロマンチックでいいですね。
原点回帰の感じ。
- おわりに
さち子一曲だけで、いくらでも語ることが出てきそう。
それくらい丁寧に作られている音楽なんですね。
アイデアが盛りだくさん。
Lampでよく言われる「複雑なコード」「ブラジル音楽から影響を受けた」
といった部分がほんの少し具体的になりました。
Lampの音楽は、何も考えずに没頭して聴くこともできるし、
考えながら聴いても多くの発見があります。
結論:好き
**
いつかLampのコード譜が発売されないかなと期待しています。
音楽に詳しい方いたら、
16小節目の「III」のコードの解釈教えてください。ここでベースがIIIってなぜだろう。
- その他記事
◆Lamp「雨降る夜の向こう」「八月の詩情」のコードを聴こう
http://kaho-ss.blogspot.jp/2015/02/lamp1.html
「雨降る夜の向こう」と「八月の詩情」のコードワークについて書きました。
相対性理論(真部脩一さん)の音楽が好きで、
返信削除以前からブログを読ませていただいていましたが、
はじめてコメントをさせていただきます。
(このブログをきっかけにLampを聴いて以来、
自分もどっぷりLampの音楽に浸っています。)
『ゆめ』では「さち子」はもちろんですが、
今は「A都市の秋」に夢中です。
私は音楽理論に関する知識はほぼありません。
けど、Lampの曲は「心地良く感じるのはこの音があるからなのかなぁ」などと、素人でももっと深く曲を味わいたいと思わせてくれます。
(聴いていてとにかく気持ちがいい。美しいですね。)
Lamp以外でもkahoさんが紹介されていたバンドや曲を聴くことで、
音楽そのものがより好きになりましたので、
また何か新しくオススメの曲やミュージシャンが見つかりましたら、
ブログで紹介していただけるとうれしいです。
個人的には最近日本デビューした「Let's be Loveless」というバンドが気に入っています。https://soundcloud.com/letsbeloveless
(ご存知でしたらすみません。。。)
では、突然のコメント失礼しました。
こんにちは。Lampを気に入っていただけたんですね、良かったです。
削除紹介記事を書いた甲斐がありました。
A都市の秋は、後半部分の
「アルーファー都ー市ー \テーテッテーン/ 」のところが大好きで
何度も聴いてしまいます。
Lampの曲の中では特に歌詞も上手く書けていて、
視覚に訴える感じがあって面白いですね。シネマ感があります。
Lampの曲は、普段聞かないような特別な音が使われていたりしますので、
Lampを聴いているうちに、聴ける音楽の幅が増えていくはずと思います。
じっくり付き合いたいですね。
これからもお気に入りの曲を紹介できたらと思いますが、
「気に入った作曲者の作品だけをずーっと聴く」のが好きなので、
最近の音楽事情など、あんまり詳しくないのです……。
むしろコメントなどで教えて頂ければ幸いです。
Let's be Loveless、リンク先より聴いてみました。
露骨に好みな音でした。カーディガンズの直系な感じがします。
相対性理論好きな方はみんな気に入りそうですね。
Soundcloudに貼ってあるなかでは、ギターポップっぽい音が好みで、
「Assassination」がお気に入りです。
Lampもまさにそうですが、可愛げのあるボーカルがアクセントになっていますね。
「さち子」の分析の記事、とても楽しく読ませていただきました。ここまで細かく研究してもらえると、作曲者の方もさぞ嬉しいだろうなと思います。
返信削除こんなにも凝りに凝ったコード進行の素晴らしさを、もっと多くの人が感じてくれたら良いのにな…と願ってしまいます。なかなか普通は聴き流してしまうものですもんね…。
「さち子」の分析について、僭越ながら、私なりに考えた点を挙げさせて頂きたいと思います。
まず、A2の部分について、A1とほぼ同じ進行なので上のコード譜では省略なさっていると思うのですが、
”いつかはー こんな風「に」”の「に」の部分(97小節目)の、
”Ⅳ#/Ⅲm7”(アッパーストラクチャートライアド)がめちゃくちゃ凝っているように感じます。ポップスではなかなか聴けないようなハーモニーなので、とても好きな箇所です。
また、”おわりに”でおっしゃられていた16小節目に関してですが、前の小節のベース音(Ⅲ)を残している形なので、いわゆるペダルポイントの一種(ただし2コードにのみまたがる短い形)と解釈できるのではないかと思います。
ちなみに、この曲の私の個人的な一番のツボは、最後のサビ(C3)の138小節目、一瞬だけF minor(もしくはAb Major)に転調する所(♭Ⅱm7の部分)ですね。あそこは初めて聴いた時かなり衝撃を受けました。
突然のコメント、並びに長々と駄文をすみませんでした。これからも、音楽の複雑な、魔法のような技巧について色々と紹介していただきたいです。楽しみにしています!
小坊主さん、お読みいただき誠にありがとうございます。
返信削除さち子の記事にコメントいただけて、とてもうれしいです。
こんな風「に」の音、確かに2番の和音は怪しく美しいですね!
僕の耳コピ音源だと、ここが十分に鳴っていない感じがしますね。ご指摘嬉しいです。
ご指摘の和音、#IVm /IIIm7 という感じでしょうか?(#IVはマイナーでしょうか)
ミ ソ シ レ ファ# ラ (IIIm11) までは聞こえました。ラ(11th)の音がなんとも言えず美しいです。
ただ、僕の耳だともう一つ上の13thが聞き取れませんでした……。
II△/IIIm というように聞こえました。
16小節目のIIIは、ペダルポイントと見なせばよいのですね。ありがとうございます。
まさかここにコメントいただけるとは思ってもみず、とても感動しております。
もともとIIIaug(#9)みたいな変なコードネームしか浮かばなかったのですが、
今聴くと、IVm△7(9) を第3転回形にした「IVm△7(9)/III」という表記の方が
ペダルポイントを作っている感じも出て、機能的に理にかなっているかもと感じました。
最後の138小節目、私もここが大好きで、いつも「壁/限界が打ち破られた」という感じを覚えます。
とても遠い転調のようで、それでいて信じられる和音だなと感じていました。
ただこれを書いた当時はこの部分はわからず、記事にかけませんでした…。
こちらも今聴くと、ひとつ前のbIIIdim7が、bVI7(b9)の根音省略だから、
bVI7(b9)→bIIm7 で自然に転調しているのかも、と感じます。ほんとに素晴らしいですね。
小坊主さんのコメントでまたいくつも発見があり、
聴くたびに好きになっていく曲だと改めて感じます。ありがとうございます。
ご丁寧な返信、ありがとうございます!
返信削除確かにおっしゃる通り、97小節目の部分、ローマ字記譜でII/IIImですね…!
何故か上の和音だけ原曲キー基準(実音)で考えてしまい、ごっちゃになってしまいました(笑)。
記事の内容とはずれてしまいますが、kahoさんの他の記事も読ませていただき、一人で感動しています笑。特に、フランス近代音楽や現代音楽作曲家の記事など、音楽に対する深い愛情の念が伺い知れ、食い入るように読んでしまいました。
これからも、いろいろなエントリー楽しみにしています。
過去のコメント欄でのやりとり、大変失礼いたしました!
すみません、また間違えてますね笑。上の和音だけCメジャー基準で考えてしまってた、の間違いでした。どうでもいい話ですが、すみません笑。
返信削除あと、私もラヴェル大好きです!
重ね重ね失礼いたしました。(^_^;)